一高の教員で敬虔なキリスト教徒であった内村鑑三氏は、1891年(明治24年)1月、教育勅語奉読式において自らの思想信条に基づいて明治天皇の「御名」に対して最敬礼をしませんでした。そのため「不敬事件」として周囲から非難され、職場を追われました。
絶対主義的天皇制のもとで生じた不幸な出来事でした。
日本国憲法では「思想・良心の自由」(第19条)や「信教の自由」(同20条)が謳われています。この憲法のもとで「君が代」の意味が信条と合わないから歌いたくないという人や、自分の価値観と合わないという人に斉唱を強制することは、あってはならないことです。政府も「国旗・国歌法」の審議で「子どもたちの内心にまで立ち入って強制しようという趣旨のものではない」と述べています。
ところが教育が右傾化する中で、東京都教育委員会は2003年10月、卒業・入学式などで「日の丸・君が代」を強制する通達を出しました。通達後の10年間で延べ450人の教職員が「君が代」斉唱時の不起立などを理由に処分されました。憲法違反の処分行為は、大部分が訴訟によって取り消されましたが、定年退職後の再就職を認めないケースが例外的に存在しています。
また大阪では橋本徹府知事時代に大阪維新の会が主導して2011年、大阪府と大阪市で公立小中高校の教職員に国歌斉唱時に起立することを義務付ける国旗国歌条例を制定しました。驚くべきことで、橋本氏の強引な性格がそのまま反映されています。
この度、学校現場での「日の丸掲揚、君が代斉唱」に従わない教職員らに対する懲戒処分を巡り、国際労働機関(I LO)が初めて是正を求める勧告を出しました。
勧告は「愛国的な式典に関する規則に関して、教員団体と対話する機会を設け、国旗掲揚や国歌斉唱に参加したくない教員にも対応できるものとする」、「消極的で混乱をもたらさない不服従の行為に対する懲罰を避けるため、懲戒の仕組みについて教員団体と対話する機会を設け、懲戒審査機関に教員の立場にある者をかかわらせる」ことなどを求めています。
日本への通知は4月にも行われる見通しです。勧告に強制力はないものの、掲揚斉唱に従わない教職員らを処分する教育行政への歯止めが期待されます。
東京新聞の記事と併せて2013年のしんぶん赤旗の記事を紹介します。
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「日の丸・君が代」教員らに強制 I LO、政府に是正勧告
東京新聞 2019年3月30日
学校現場での「日の丸掲揚、君が代斉唱」に従わない教職員らに対する懲戒処分を巡り、国際労働機関(ILO)が初めて是正を求める勧告を出したことが分かった。日本への通知は四月にも行われる見通し。勧告に強制力はないものの、掲揚斉唱に従わない教職員らを処分する教育行政への歯止めが期待される。
ILO理事会は、独立系教職員組合「アイム89東京教育労働者組合」が行った申し立てを審査した、ILO・ユネスコ教職員勧告適用合同専門家委員会(セアート)の決定を認め、日本政府に対する勧告を採択。今月二十日の承認を経て、文書が公表された。
勧告は「愛国的な式典に関する規則に関して、教員団体と対話する機会を設ける。規則は国旗掲揚や国歌斉唱に参加したくない教員にも対応できるものとする」「消極的で混乱をもたらさない不服従の行為に対する懲罰を避ける目的で、懲戒の仕組みについて教員団体と対話する機会を設ける」「懲戒審査機関に教員の立場にある者をかかわらせる」ことなどと求めた。
一九八九年の学習指導要領の改定で、入学式や卒業式での日の丸掲揚と君が代斉唱が義務付けられて以来、学校現場では混乱が続いていた。アイム89メンバーの元特別支援学校教諭渡辺厚子さんは「教員の思想良心の自由と教育の自由は保障されることを示した。国旗掲揚や国歌斉唱を強制する職務命令も否定された」と勧告を評価している。
これまで教育方針や歴史教科書の扱いなどを巡る勧告の例はあったが、ILO駐日事務所の広報担当者は「『日の丸・君が代』のように内心の自由にかかわる勧告は初めてだ」と話している。 (佐藤直子)
都教委「日の丸・君が代」強制通達10年
自由と人権 学校に 撤回求めて集会
しんぶん赤旗 2013年10月21日
東京都教育委員会が卒業・入学式などで「日の丸・君が代」を強制する通達(10・23通達)を出してから23日で10年になるのを前に、通達の撤回を求め、憲法改悪を許さず、学校に自由と人権を求める集会が19日、東京都内で開かれ、190人が参加しました。「日の丸・君が代」関連の裁判の原告団ら13団体でつくる実行委員会が主催しました。
10・23通達が出されてから都内では、のべ450人の教職員が「君が代」斉唱時の不起立などを理由に処分されました。処分取り消しなどを求める提訴が相次ぎ、これまでに32件の処分取り消しが確定しています。
(中 略)
10・23通達 2003年10月23日に都教委が出しました。「教職員は指定された席で国旗に向かって起立し国歌を斉唱する」「児童生徒の席は正面を向いて座るよう設営する」など細部まで規定した「実施指針」通りの式を強制、従わない教職員を処分することを明確にしました。通達後、現場への管理が強まり、卒業生と在校生が向かい合う形の式や「君が代」斉唱の前に「内心の自由」について説明することなどが禁じられました。