2019年3月10日日曜日

「私が向き合う」の仰々しさ 安倍首相 政権浮揚が目的の北朝鮮利用

 北朝鮮は、先月の2回目の米朝首脳会談に際して、安倍首相がアメリカ側に拉致問題を取り上げるよう要請しロビー活動に人的物的資源を総動員したと名指しで非難したうえで、「私たちが相手にするにはいままで日本が犯した罪はあまりにも大きい。日本が過去の罪悪について賠償しないかぎり、われわれとつきあう夢を見るべきではない」として、改めて過去の清算を求めました。(労働新聞―NHK 3月8日)
 
 昨年、第1回米朝首脳会談(6月12日)に向けた流れが出来たとき世界はその成功を期待しましたが、安倍首相だけは「制裁を強化すべきだ」、「北朝鮮は信用できない」と強調し、事実上反対しました。それは米朝会談に前向きなトランプ氏を牽制する意図からでしたが、拉致問題を抱える首相の取るべき態度かと思わせるものでした。
 意図に反して米朝会談が実現することになると、安倍首相は今度はトランプ氏に北との仲介を頼むという醜態を演じました。米大統領の仲介があったからといって、そこまで悪しざまに言われ、かつ最も恐れている制裁の強化を訴えた安倍氏と、北が簡単に向き合うと思ったのであれば常識を疑われる話です。
 当然その後は立場を失って、日本は米朝韓中(ロ)の輪=いわゆる蚊帳の外に置かれたままになっています。
 
 安倍首相は2回目の米朝会談が不成功に終わると、「今度は私が北の委員長と向き合わねばならない」と述べました。ある人に言わせるとそれは6回目の発言で、ナント首相官邸のホームページにも同じ言葉がデカデカと載っているということです。
 しかし冒頭に紹介した労働新聞の報道に見られるように日朝の関係はいま最悪で、谷内氏あたりを密使に仕立ててみてもどうなるものでもなく、安倍氏が退場しない限りもはや修復は不可能の状態にあります。
 正常な情緒と判断力を持っていれば上記のような発言はとても出来ないはずで、政権浮揚のための「国内向けのパフォーマンス」と考えるしかありません。
 日刊ゲンダイの記事を紹介します。
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「私が向き合う」の仰々しさ 場当たり首相の北朝鮮利用
日刊ゲンダイ 2019年3月9日
(阿修羅 文字起こし より転載)
 この6年間、まったく何もしてこなかったくせに、よくもヌケヌケと口にできたものだ。
 先月27、28日に行われた2回目の「米朝会談」の後、拉致被害者家族と官邸で会った安倍首相が、「次は、私自身が金正恩委員長と向き合わなければいけない」と豪語したことに、国民は呆れ返ったに違いない。
 このフレーズをよほど気に入っているのだろう。
 ご丁寧なことに、首相官邸のホームページにも、同じ言葉をデカデカと載せている。
 昨年6月、最初の「米朝会談」が行われた時も、同じように「直接、北朝鮮と向き合い、2国間で解決していかなければならない」と語っていた。
 
 しかし、いまさら「私が向き合う」とはお笑い草である。これまで支持率が下がるたびに北朝鮮の脅威をあおって支持率を回復させてきたくせに、“米朝接近”によって北の脅威を利用できなくなった途端、「私が向き合う」と方針転換し、また拉致問題を政権浮揚に利用しているのだから度し難い。
 いったい、いつまで拉致を政治利用するつもりなのか。“拉致の安倍”をウリにして総理にまでのし上がったが、「圧力」から「対話」へカンタンに方針を変えるとは、本気で解決する気があるとは思えない。人気取りのために利用してきただけなのではないか。もし、本気ならとっくに北朝鮮と向き合っていたはずである。拉致被害者家族会の事務局長だった蓮池透氏はこう言う。
「日本は拉致問題の当事者ですよ。なのに、安倍首相はトランプ大統領頼みなのだからどうかしています。やる気がない証拠ですよ。金正恩委員長にまで『なぜ日本は直接言ってこないのか』と指摘される始末です。拉致被害者である田中実さんの生存情報がもたらされても知らんぷりを決め込んでいます」
 
■日本だけが北朝鮮に相手にされていない
 そもそも「次は私が金正恩委員長と向き合う」と大言壮語しているが、どこに北朝鮮とのパイプがあるのか。
 トランプ大統領も、習近平主席も、文在寅大統領も金正恩と会談しているのに、安倍だけ相手にされていない。できもしないのに「次は私が向き合う」と堂々と口にするとは、この男の大言壮語ぶりは、ほとんどビョーキだ。
 朝鮮半島問題に詳しいジャーナリストの太刀川正樹氏がこう言う。
北朝鮮の労働新聞は、安倍首相のことを罵倒しています。さんざん北朝鮮への憎悪をあおり、圧力をかけるべきだと攻撃してきたのだから当然です。安倍政権が続く限り、北朝鮮は日本との対話に応じないと思う。ここまで日朝関係がこじれたら、中国か韓国に仲介してもらうしかないでしょう。トランプ―金正恩の会談も、韓国の文在寅大統領が間に立って動いたことが大きかった。でも、安倍首相は中国とも韓国とも対立している。いくら“次は私が向き合う”と力んでも、糸口さえない。もっとも安倍首相は、日朝会談の実現はどうでもよく、“やっている感”さえ出せればいいと考えている可能性があります
 
 北朝鮮が日本を相手にしないのは、どうせ日本はアメリカの言いなりだと見られていることも大きい。
アメリカと合意できれば、日本は必ずアメリカについてくる、と北朝鮮はタカをくくっています。もし、日本がアメリカの意向を気にせず独自外交をするつもりがあるなら、日本との交渉に応じるかも知れない。でも、安倍首相は、アメリカの意向に従って、対北朝鮮政策さえ“圧力”から“対話”に百八十度変えてしまった。金正恩委員長は、安倍首相を相手にしても意味がないと考えているはずです」(太刀川正樹氏=前出)
 相手にされていないのに、いったい、どうやって北朝鮮と向き合うつもりなのか。 
 
政権浮揚だけが目的の最悪外交 
 
「次は、私自身が金正恩委員長と向き合わなければいけない」と、“やっている感”を演出しているが、安倍政権のままでは絶対に拉致問題は解決しない。
 さすがに、拉致被害者家族も不信感を強めているのだろう。横田早紀江さんは「日本政府を信じてきてよかったのか」と漏らし始めている。
 外交官出身の天木直人氏はこう言う。
外交が成功するかどうかのカギは、リーダーにリスクを負う覚悟があるのかどうか。国益のために、国民に嫌われる覚悟があるかどうかです。小泉訪朝によって拉致被害者5人が帰国したのも、小泉さんがリスクを取ったからでしょう。拉致問題が解決しないのは、安倍首相にリスクを取る覚悟がないからです。日本政府は、“拉致被害者全員”の帰国を要求しています。でも、すでに亡くなっている被害者がいるなど、最悪のケースがあるかも知れない。恐らく、国民の中から『死亡したというのは嘘だ』『そもそも拉致被害者はもっといるはずだ』と強い反発が出るでしょう。それでも、退陣覚悟で拉致問題を進める覚悟があるかどうかです。一国のリーダーは皆、リスクを取って外交をしている。韓国が南北融和に動き、アメリカを説得して“米朝会談”を実現に動いたのも、リスクがあったはずです。でも、安倍首相は、政権浮揚のために拉致問題を扱っているようにしか見えない。これではモノは動きませんよ」
 北方領土の返還が進展しないのも、覚悟が足りないからではないか。ロシアは北方領土に米軍が駐留することを極端に嫌がっている。トランプ大統領と対立するリスクを覚悟し、「米軍は駐留させない」と約束すれば、領土返還は進展する可能性があるはずだ。
 
■安倍政権の6年間で拉致解決は遠のいた
 いい加減、安倍は拉致の政治利用をやめたらどうだ。
 そもそも「地球儀を俯瞰する外交」などと利いたふうなことを口にしているが、ひとつでも成果があったのか。
 この6年間で50カ国以上の国を訪問したと自慢しているが、気前よく国民の税金をばらまいただけのことだ。カネをもらえば、どの国だって歓迎するのは当たり前なのに、安倍本人は“外交の安倍”を気取っているのだから、どうしようもない。
 
 安倍外交が失敗に終わっているのは明らかだ。中国、韓国、北朝鮮の隣国とは、対立したまま。必死になって中国包囲網をつくろうとしたが、それも失敗に終わっている
 北方領土も1ミリも動かない。むしろ後退している。日本は4島返還が大前提だったのに、いつの間にか2島の返還は諦め、歯舞、色丹の2島が返還されても、主権はロシアに残されたままになる、という話さえ流れている。
 もちろん、拉致問題は一歩も進んでいない。
 
「この6年間、日本は貴重な時間を無駄にしてしまった。この先、人口が減り、高齢化が進む日本の国力はどんどん落ちていくでしょう。とくに2020年の東京オリンピック以降は急降下する恐れがある。やはり外交は繁栄している国が力を持ちます。日本にとってこの6年間は、外交力を発揮する最後のチャンスだったかも知れない。なのに、安倍首相には長期的な外交戦略がまったくなかった。対北朝鮮政策も“圧力一辺倒”から、いきなり“対話路線”に振り子が振れている。かつては『経済支援が欲しいから北朝鮮は話に乗ってくる』という見方があったが、いまでは中国と韓国からの支援をあてにして、日本からの支援を急がなくなっている。安倍政権の6年間でますます拉致問題の解決が難しくなっている格好です」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)
 
 いつまでも拉致の政治利用が許されると思ったら大間違いだ。