2日の朝日新聞に、〈「毎月勤労統計」の調査手法変更をめぐり、村木厚子・厚生労働事務次官(当時)が2015年春、中江元哉首相秘書官(同)が従来の総入れ替え方式を問題視していると部下から報告を受けていたことが分かった〉とする、小さい記事ながら衝撃的な話が載りました。部下は姉崎猛・厚労省統計情報部長(同)と見られるということです。
厚労省は約2カ月後の6月に、調査方法を見直すための「毎月勤労統計の改善に関する検討会」を発足させました。当時の委員の一人は「サンプルを(全数)入れ替えるたびに数値が悪くなるそれまでのやり方に官邸か、菅(義偉官房長官)さんかが『カンカンに怒っている』と厚労省職員が相当気にしていた」と述べていますが、それは委員たちの共通の認識でした。
それでも村木次官は、首相官邸の言いなりになるのでなく発足させた検討会を尊重して、従来通りの公正な総入れ替え方式を守ろうとしましたが、9月、中江首相秘書官が安倍首相に総入れ替え方式の問題を伝えたあと、官邸からの圧力はさらに強まりました。
後は一気呵成で、9月14日、再び中江首相秘書官と姉崎統計情報部長が面会した日の夜に、「総入れ替え方式が適当」と記述されていた検討会の中間整理案が、「引き続き検討することとする」と書き換えられ、2日後の9月16日の第6回会合で、姉崎統計情報部長が「サンプルの入れ替えのところで総入れ替え方式ではなく、部分入れ替え方式を検討したい」とそれまでの議論をひっくり返し、そのまま検討会をなくしてしまいました。
この経過は村木次官も認識していたはずですが、翌月10月に退任することが決まっていたため、強く出ることができなかったと見られています。
村木氏は1月20日のNHK『あさイチ』で官邸の圧力を示唆する発言のあと、こんなことを語っています。
「いま起きている歪みを、役所自体が暴露していけるという環境を作っていくというのがまず第一歩で、ではなんでそんなことをしなくちゃいけなかったのかっていうのをちゃんと見ていく、調べていく。そこから再発防止をきちんと考えていくことが大事になるかなと思います(要旨)」
まさに正論ですが、強権を持つ安倍氏がのさばっている限りはそれも出来ません。
安倍首相は国会で、「18年に起きたことを15年に予見するなどということはあり得ない」という趣旨の答弁としていますが、あり得ないどころか正確に意図して画策したのであり、この賃金統計の不正でも、実質的には全て安倍首相が要所、要所で差配していたわけです。
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村木厚子氏が厚労省次官時代、官邸・中江首相秘書官の圧力の報告を受けていた! 『あさイチ』でも圧力を示唆
LITERA 2019年3月3日
安倍官邸の圧力を示す証拠が次々と発覚している統計不正問題だが、ここにきてさらに新たな事実が判明した。当時、厚労省事務次官だったあの村木厚子氏が、官邸からの圧力の報告を受けていたことがわかったのだ。
報じたのは、朝日新聞。3月2日付朝刊、総合4面の小さな記事だったが、こんな衝撃的な話が書かれていた。
〈「毎月勤労統計」の調査手法変更をめぐり、村木厚子・厚生労働事務次官(当時)が2015年春、中江元哉首相秘書官(同)が従来の総入れ替え方式を問題視していると部下から報告を受けていたことが分かった。部下は中江氏との面会が判明している姉崎猛・厚労省統計情報部長(同)の可能性があるという。関係者が明らかにした。〉
村木氏といえば、厚労省課長時代の2009年、虚偽有印公文書作成・同行使の容疑で逮捕されるも、のちに冤罪が証明され、復職。安倍政権下の2013年から2015年にかけて事務次官をつとめていた。
安倍官邸が賃金下降を隠すため、厚労省に対して、毎月勤労統計調査の調査サンプルを総入れ替え方式から部分入れ替え方式に変更するよう圧力をかけていたのが、2015年。村木氏はその時期に厚労省の事務方トップの職にあり、中江首相秘書官から統計が「問題視」されていたことを、部下の姉崎統計情報部長から聞かされていたというわけだ。
実際、この時期、官邸の中江首相秘書官と、厚労省の姉崎統計情報部長の間で、報告通りのやりとりがあったことがわかっている。
朝日新聞によれば、村木氏が報告を受けたのは、「3月末前後」ということだが、厚労省は3月30日に、毎月勤労統計の速報値公表の延期を突如決定。翌31日には、首相官邸で姉崎統計情報部長が中江首相秘書官に面会して、総入れ替え方式によって賃金の伸び率が下がることを正式報告。その際に、中江首相秘書官が姉崎統計情報部長に総入れ替え方式の「改善」を求めているのだ。
中江首相秘書官は国会での答弁でこのときの圧力について追及され、「問題意識を伝えた」などと言っていたが、「問題意識を伝えた」だけの話が、トップのところまで報告されるわけはない。これは明らかに、首相官邸による厚労省全体に対する「圧力」だったのである。
実は、統計問題で圧力があったことについては、村木氏自身がテレビで口にしていた。それは今年1月20日放送の『あさイチ』(NHK)でのこと。同番組のプレミアムトークに村木厚子氏が出演したのだが、そのとき、視聴者から「毎月勤労統計」の不正など、なぜ役所はデータ改ざんや隠蔽をおこなうのか、という内容のメール質問がよせられた。これに対し、村木氏はこう答えたのだ。
「悪いことをしたいって思ってやっている公務員って、私は少ないんじゃないかと思っているんですね。何かの圧力がかかったり、あるいは何かの歪みが起きていて、そういうことをやっている」
この発言については、本サイトでもいち早く紹介し、「村木氏の発言は統計不正をめぐる安倍官邸の圧力を示唆するものではないか」と分析したが、まさに、そのとおりだったということだろう。
中江首相秘書官の「圧力」に当初は抵抗するも、完全屈服した厚労省
実際、中江首相秘書官が厚労省に対して強い圧力を加えていたことは、そのあとの動きや、内部の声からも窺い知ることができる。
厚労省は、約2カ月後の6月に調査方法を見直すための「毎月勤労統計の改善に関する検討会」(以下、検討会)を発足。この検討会の委員である第一生命経済研究所の永濱利廣氏は、朝日新聞の取材に対し「官邸が(改訂を)問題視して、なんとかしろと言う話で厚労省が立ち上げたのが検討会」と話しているが、ほかの委員もこんな証言をおこなっている。
「サンプルを(全数)入れ替えるたびに数値が悪くなるそれまでのやり方に官邸か、菅(義偉官房長官)さんかが『カンカンに怒っている』と言って厚労省職員は検討会の最初から相当気にしていた」(東京新聞2月10日付)
「プラスだと喜んでいたところ実はマイナスだったということで、官邸が怒っているという話を、誰からか聞いた記憶はある」(朝日新聞2月15日付)
しかし、それでも、厚労省は当初、首相官邸の言いなりになるのでなく、発足させた検討会を尊重して、従来通りの公正な総入れ替え方式を守ろうとしていたようだ。
「検討会を尊重するという方針は、村木さんが決めたようです。実際、8月7日におこなわれた検討会の第5回会合では、座長である阿部正浩・中央大学教授がはっきりと『検討会の方向性としては、総入れ替え方式で行うことが適当であるということにさせていただければと思います』と、官邸の主張する一部入れ替え方式を拒否する方針を打ち出しました」(全国紙厚労省担当記者)
ところが、周知のように、9月、中江首相秘書官が安倍首相に総入れ替え方式の問題を伝えたあと、圧力がさらに強まり、厚労省は首相官邸に完全に屈することになる。この間、明らかになったメールをみてもわかるように、阿部座長に対して「官邸からの圧力」が間接的に伝わるようになり、9月14日、再び中江首相秘書官と姉崎統計情報部長が面会。すると、その日の夜に、調査方法は「総入れ替え方式が適当」と記述されていた検討会の中間整理案が、「引き続き検討することとする」と書き換えられ、2日後の9月16日の第6回会合で、姉崎統計情報部長が「サンプルの入れ替えのところで総入れ替え方式ではなく、部分入れ替え方式を検討したい」とこれまでの議論をひっくり返し、そのまま検討会をフェードアウト(消失)させてしまったのだ。
村木厚子元次官の「何かの圧力があった」発言の裏にあった思いとは
「厚労省が首相官邸の圧力に屈して、恣意的な調査方式に変えたことについては、村木次官も認識していたはずです。ただ、この時点で村木次官は翌月10月に退任することが決まっていたため、強く出ることができなかったのではないでしょうか」(前出・厚労省担当記者)
そう考えると、『あさイチ』における村木氏の「何かの圧力があった」という発言は、こうした自分への忸怩たる思いから発したものだったのかもしれない。
今回の朝日の記事には、村木氏自身の肉声は掲載されていないが、検察と真っ向闘い、冤罪を証明した村木氏のことである。今後、実名で、その圧力の詳細を告発する可能性もあるのではないか。
村木氏は先の『あさイチ』で圧力を示唆する発言のあと、こんなことも語っていた。
「やっている人間も決して喜んでやってないはずで、そういうことをやらずにすむ、隠せないようにしてあげる。外からの目が必ず入って、いろんなことが、プロセスがオープンになれば、逆に隠さなくてすむわけですよね。それがすごく大事なことじゃないかなっていうふうに思います。
正直に、今、起きている歪みとかっていうのを、役所じたいがカミングアウト(暴露)していける。そういう環境を作っていくっていうのがまず第一歩かなっていうふうに思います。外の目が入るほうがずっと健全になって、前向きにいろんなことが進むのかなっていうふうに思います」
「ああいう不正をしたら誰かが得したとか、ポケットにお金が入ったっていうことはないわけですから。じゃあ、なんでそんなことをしなくちゃいけなかったのかっていうのをちゃんと見ていく。調べていく。そこから再発防止をきちんと考えていくことが大事になるかなと思います」
村木氏の勇気ある告発に期待したい。 (編集部)