2019年3月13日水曜日

「毎勤統計は“背の高い別人にシークレット靴”履かせたまま」(明石順平氏)

 明石順平弁護士の解説記事「毎勤統計は“背の高い別人にシークレット靴”履かせたまま」(GDP600兆円目前のカラクリ) を紹介します。
 明石弁護士は、ベストセラー(アベノミクス批判書)「アベノミクスによろしく」の著者で、2月26日の衆院予算委中央公聴会には公述人として招かれ、賃金統計において17年と18年で算出方法の異なるものを比較した伸び率は、端的にいってウソの数字で統計法違反になると批判し、家計最終消費支出は14~16年にかけて3年連続で減少し、この実質賃金の大きな下落が戦後最悪の消費停滞を引き起こしたと述べました。
 当ブログでは、下記のインタビューを紹介しています。
 
 連載記事で次回は「実質賃金」についてです。
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GDP600兆円目前のカラクリ (1) 
毎勤統計は“背の高い別人にシークレット靴”履かせたまま
明石順平 日刊ゲンダイ 2019年3月13日
弁護士                            
まず、最近話題になっている厚労省の毎月勤労統計の問題についてお話しします。
 
  2018年1月に毎勤統計の賃金算出方法が変更されました。簡単に言うと、
①サンプル企業を一部入れ替え
②ベンチマーク(賃金算出に使う係数のようなもの)更新
③復元処理
――の3点です。③の復元処理というのは、東京都における500人以上の事業所について約3分の1しか抽出していなかったため、それを約3倍にして復元処理したというものです。世間でよく知られているのは③の部分でしょう。
 18年1月からこっそり復元処理を始めたことが賃金上振れ要因のひとつになりました。
 例えるなら、
①でちょっと背の高い別人に替える、
②でシークレットシューズを履かせる、
③で頭にシリコーンを埋める
――といったところです。これで安倍政権は「身長が伸びた!」と言い張っていたのです。しかし、③はあえなくバレたので、過去に遡って修正されました。
 
 ところが、ここが最も重要な点なのですが、①と②は遡って修正されず、そのままなのです。これまではこういう場合は遡って修正し、データにおかしな段差が表れないようにしていたのですが、それをあえてしていません。つまり、18年の賃金はちょっと背の高い別人に入れ替え、シークレットシューズを履かせた状態で17年と比較しているということ。その結果、賃金が異常に伸びることになりました。
 13~17年までの5年間で名目賃金は1・4%しか伸びていないのですが、18年はわずか1年間で名目賃金が1・4%伸びることになったのです。5年分の賃金上昇をたった1年で達成するという凄まじいインチキです。これで実質賃金(名目賃金を消費者物価指数で割った値で、本当の購買力を示す)は前年比プラス0・2%となり、かろうじて前年比マイナスを免れることになりました。
 
 算出方法が異なるものをそのまま比較した伸び率は、端的に言ってウソの数字です。このウソの数字がずーっと公表されっぱなしになっているのが毎勤統計の現状なのです。
 統計不正というと、東京都の500人以上の事業所について約3分の1しか抽出していなかったこと、それをこっそり3倍に復元処理していた点ばかりが注目されていますが、それよりも重要な点があります。算出方法の異なる数字をそのまま比較し、ウソの伸び率を公表している点が本当の問題なのです。この点を絶対に混同してはいけません。
 次回は実質賃金についてお話しします。  (つづく) 
 
  明石順平 弁護士
1984年、和歌山県生まれ。東京都立大法学部、法大法科大学院卒。労働事件、消費者被害事件を主に担当。ブラック企業被害対策弁護団所属。著書に「アベノミクスによろしく」「データが語る日本財政の未来」