エチオピアの航空機が離陸直後に墜落した事故に関して、50以上の国・地域が、ボーイング737MAX新型機の離陸時の安全性に疑問があるとして、原因がわかるまで飛行を停止すると発表しました。
それに対して米連邦航空局(FAA)は「機体の安全性に問題はない」として危険性を否定していましたが、トランプ米大統領がトップダウンで緊急停止命令を発動しました。これは珍しくまともなことだと評価されています。
5カ月の間に同じ新型機が2回も離陸直後に墜落し、全員が死亡するという大事故を起こしたのでは、多くの航空会社とパイロットが「これでは飛べない」というのは当然です。
この新型機は、エンジンの燃費を向上させたことで多くの乗客を乗せて長い航続距離をとれることから、中型機の主力機としてエアバスA320と激しい受注合戦を繰り広げているため、ボーイング社はシステム上の問題を認めたがらないのですが、このまま解決が遅れて世界のユーザーからの不信感が高まれば、アメリカの航空機産業が壊滅に向かいかねないと大統領がおそれた結果、今回の決定になったと見られています。
元日本航空機長の杉江弘氏が、この事故の原因についての見解を発表しました。
杉江氏は、エチオピア航空機は離陸後3分経っても高度は150mほどしか上昇できず、速度が異常に増大したところで同機からの電波が途絶えたのは、機を上昇させようと加速した結果、出していたフラップの運用限界速度の約2倍の速度になったことで機体が破壊し、空中分解したと見ています。
その間パイロットは必死に操縦桿を引いて機首を上げようとしたものの、手動操縦状態にもかかわらず水平尾翼が機首下げ(尾翼は上向き)に自動的に動いたために上昇できなかったもので、パイロットはそういうシステムになっていることを知らされていなかったのではないかとしています(模型飛行機を飛ばした経験のある人には、水平尾翼を上向きに曲げれば機首が下向きになることは容易に理解できます)。
そしてこのようなことは、これまでの航空機ではあり得ないことで、世界中のパイロットは誰も経験していないはずであると述べています。
今後の調査によってそうした事実と解決策が明らかにされないことには、パイロットたちが再びこの機の操縦桿を握ることはないでしょう。
Business Journalの記事を紹介します。
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ボーイング新型機・墜落事故続発…
あり得ない新システム、航空会社へ説明不十分が原因か
杉江弘 Business Journal 2019年3月15日
航空評論家・元日本航空機長
エチオピア航空機が離陸直後に墜落した事故は、国際的に大事件になりつつある。すでに50以上の国・地域が新型機の安全性に疑問があるとして、原因がわかるまで飛行の停止を発表したにもかかわらず、ボーイングは「機体の安全性には自信を持っている」と言ってきたが、トランプ米大統領がトップダウンで緊急停止命令を発動した。その理由について「米国民の安全を守るのが使命」としている。
私は多くの方々同様、トランプ大統領のやることには疑問が多かったが、これだけは良い決断と評価したい。いくらボーイングが問題ないと言っても、現実に5カ月の間に同じ新型機が離陸直後に墜落し、全員が死亡するという大事故を起こしている。多くの航空会社とパイロットが「これでは飛べない」と言っているのだ。
ボーイングが簡単にシステムの問題を認めないのにはわけがある。今回事故を起こした737MAXは、これまでの737シリーズに比べてエンジンの燃費を向上させたことによって、多くの乗客を乗せることができ、航続距離も長くとれることで、これからの中型機の主力機としてエアバスA320neoと激しく受注合戦を繰り広げているからだ。
しかしトランプ大統領は、このままでは解決が遅れ世界のユーザーからの不信感が増幅しアメリカの航空機産業が壊滅的になることを直感的に恐れて、今回の決定を行ったのではないか。
■事故原因はパイロットも知らぬ新しいロジックにあり
エチオピア航空は離陸後わずか3分で高度も150メートルほどしか上昇できず、速度は異常に上昇したところで、衛星に送る電波が途絶えている。その間、パイロットは必死に操縦桿を引いて機首を上げようとしたが、尾部の水平安定板が機首下げの方向に連続的に動き、最後は出していたフラップの運用限界速度の約2倍の速度になったことによって、機体の破壊が起こったとみられている。
ショッキングな話だが、私は最終的には空中分解したと考えている。最初に水平安定板が機首下げに動いたのは、5カ月前のライオン・エアの事故時と同様に、失速を知らせるAOAセンサーのトラブルなのか、あるいはほかのコンピューターのトラブルかは現時点ではわかっていないが、離陸直後に手動操縦状態にもかかわらず水平安定板が機首下げに自動的に動いたのは、ほぼ間違いがないと考えられる。
このようなことは、これまでの航空機ではあり得ないことであり、世界中のパイロットは誰も経験していないはずである。この新しいシステムとロジックを、ボーイングが正しく航空会社とパイロットに知らせていなかったことも、事故を防ぐことができなかった原因の一つである。パイロットが知らないで、離陸後にいきなり今回のようなトラブルが発生したら、どんな優秀なパイロットでも回復不可能となっても不思議ではない。私自身もこのような人間工学に反したシステムが加わった航空機は、怖くてとても操縦できないと思う。
■原因がわかるまで運行停止を求める
何度も言うが、手動操縦中に水平安定板が機首下げに自動的に動くなどということは、今までパイロットが経験したことのない領域である。したがって、このシステムの改修が終わるまで絶対に飛ばせてはならない。今のままでは、いつまた第3の事故が起こっても不思議ではない。
現在、ブラックボックスも回収されており、今後は米国家運輸安全委員会(NTSB)が調査に入ることになるので、その中間発表に注目したい。NTSBは独立性を持ち、さまざまな利害にとらわれずに真相を解明してくれる組織だからである。調査の結果、2つの事故に共通する事故原因が特定されることに期待したい。
(文=杉江弘/航空評論家、元日本航空機長)