米国は突如、ベネズエラに駐在する全ての米大使館員を今週中に退去させるとの声明を発表しました。退去の理由は、「大使館員の存在が米国の政策の制約になっている」からということです(毎日新聞)が、大国である米が、大使館員全員を引き揚げるというのは尋常ではありません。
かつてイラクのフセイン大統領との会談で、「米国はイラクがクエートに侵攻してもそれを容認する」と述べてイラクのクエート侵攻を誘導したイラク駐在米大使は、フセイン大統領がクエート侵攻を開始した日に帰国して、イラクはその後米国によって攻め滅ばされました。
いまベネズエラで起きているハイパーインフレを中心とする悲劇はマドゥロ政権の失政に、米国による経済制裁が重なって引き起こされました。しかし正規の選挙で選出された大統領を反米左翼政権だとして無視し、グアイドを暫定大統領と認めるなどは許されないことです。
ベネズエラの世界一の埋蔵量といわれる石油や豊かな鉱物資源に食指を伸ばす米国は、自らへの従属を拒むチャベスが大統領に就いた1998年からずっと政権転覆の試みを続け、いまもその系列であるマドゥロ政権の転覆を画策しています。
別掲の記事に示す様に、世界的に有名なコラムニストである Paul Craig Robertsは、
「ベネズエラには、金、ボーキサイトやコルタンを含め、世界最大の石油埋蔵量と豊富な他の天然資源がある。だがマドゥロ政権の下では、そうしたものにアメリカや多国籍企業が手をつけられないのだ」と述べています。
マドゥロ政権の賢明な対応で米国によるグアイド擁立作戦は失敗しましたが、そんなことで引き下がる国ではありません。
毎日新聞と櫻井ジャーナルの記事を紹介します。
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米、ベネズエラ全大使館員退去へ 左翼政権と野党対立で情勢悪化
毎日新聞 2019年3月12日
ポンペオ米国務長官は11日、反米左翼マドゥロ政権と野党の対立が続く南米ベネズエラ情勢を巡り、首都カラカスに駐在する全ての米大使館員を今週中に退去させるとの声明を発表した。
声明は退去の理由として、ベネズエラの情勢悪化や、大使館員の存在が米国の政策の制約になっていることを挙げた。
マドゥロ大統領は1月、米大使館員に国外退去するよう通告したが、ポンペオ氏はマドゥロ氏に国交を断絶する権限はないとして拒否する声明を発表していた。(共同)
御仕着せの取材で書いた記事は権力者のプロパガンダにすぎない
櫻井ジャーナル 2019年3月12日
フアン・グアイドなる人物をベネズエラの暫定大統領に任命したのは事実上、アメリカ政府。ウゴ・チャベスが大統領選挙に勝利した1998年からアメリカ支配層は政権転覆を目論んできたが、グアイドの件もその延長線上にある。
そのアメリカに従属している国、例えばオーストラリアやカナダのアングロ・サクソン国、日本、EU、ラテン・アメリカの属国、つまりアルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、コスタ・リカ、グアテマラ、ホンジュラス、パナマ、パラグアイ、ペルーなどの政府もグアイドを支持している。
それに対し、ロシア、ベラルーシ、中国、トルコ、イラン、シリア、ラテン・アメリカではボリビア、キューバ、ニカラグア、エル・サルバドルなどは法律に則って大統領に就任したニコラス・マドゥロを支持している。選挙はアメリカなどよりはるかに公正なものだった。
選挙で選ばれたわけでないグアイドを暫定大統領と表現すること自体、アメリカのクーデターに組していると言われても仕方がない。
アメリカの支配層は目障りな政権や体制を転覆させる際、似た手口を使う。まずエリート層の買収、それがだめなら恫喝。さらに進んで暗殺やクーデター、状況によっては軍事侵攻だ。クーデターの前にはメディアや広告会社を使ってプロパガンダを展開、配下のゴロツキや労働組合、最近ではNGOを使って抗議活動を展開、それと並行して経済戦争を仕掛ける。
鉱物資源を輸出している国を潰すために相場を暴落させることは昔から行われてきた。さらに生活必需品が手に入らないようにしたり、逆に主要輸出品を売れないよう各国に圧力を加える。銀行や金融関係の国際機関は融資を止めたり、厳しい取り立てを始める。やることは犯罪組織と同じ。
ベネズエラの主要輸出品は石油だが、2014年半ばから原油相場が暴落して経済状況は悪化する。9月11日にアメリカの国務長官だったジョン・ケリーとサウジアラビアのアブドラ国王と紅海の近くで会談しているが、その会談でも相場引き下げについて話し合われたと言われている。
相場を暴落させる最大の目的はロシア経済を破綻させることにあったと推測されている。これは失敗に終わったものの、ベネズエラは大きなダメージを受けている。さらに経済戦争、要するに兵糧攻めにあって苦しくなったのは事実。
アメリカ側でベネズエアラ攻撃を指揮しているのは殺戮と破壊を繰り返してきたエリオット・エイブラムズだが、そのグループのシナリオでは物資不足で社会が不安定化、ニコラス・マドゥロ政権に対する不満が爆発することになっていたのだろう。ところがロシア、中国、イラン、キューバなどからの人道的支援でそうした展開にはならず、店には商品が並んでいる。
有力メディアの記者は予定稿通りに書いたのだが、それが事実と違うということかもしれない。予定稿があるとすると、それはアメリカ支配層のプランに基づいている。事前の調査が不十分で現地に情報網を持っていない場合、御仕着せの取材でそのプランを書くように仕向けられるだろう。現地へ行けば事実が見えるというものではない。