政府寄りのNNN・TVと読売新聞が12日に発表した世論調査では、内閣支持率が先月と同様37%と発足後最低を示した一方で、読売新聞は13日になって「東京に限れば支持率は28%」だとする記事を出しました。驚くべき数字であり、こうした2段階の報道も異例です。
世に倦む日々氏は、もう一つ「無党派層の71%が菅内閣の不支持だ」としている点を重視しながら、こうした読売新聞の挙動について考察する記事を出しました。
そこではいつもながらの深読みが展開され、説得力があります。
ブログの後半では、西村経再相が酒提供の飲食店に圧力をかける発言をして非難を浴びている問題に移り、それを関係閣僚会議で決めたのは7日ではなく6日であるとし、飲食店に国税と金融機関から圧力をかけるという策は菅首相自身の着想と指示であるとし、「菅義偉の発想であり、菅義偉らしい思考回路と意思決定の所産であり、他の人間からはこのような無茶な強権策は出ない」と述べています。
氏のこの見解は8日以降一貫しています。
またその後の対応で、国税庁はすぐ動き8日付の「事務連絡」を作成して、酒類中央団体連絡協議会に即座に圧力をかける行動に出たのに対して金融庁の方はすぐに動かず、9日に問題になった直後にTBSの取材を受けて事実関係を白状している辺りは、一部財務官僚による菅義偉への造反の側面を否めないとして、内閣官房副長官補で行政文書発信の実務を仕切った藤井健志氏を国会に召喚しなければならないと呼びかけています。
こちらもなかなかの深読みです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
無党派層の7割が菅政権を不支持(読売) - 藤井健志を国会証人喚問せよ
世に倦む日々 2021-07-14
12日(月)の夜遅く、NNNと読売新聞の最新の世論調査が配信された。NHKが7時のニュースで今月の世論調査結果を発表した直後である。NHKの内閣支持率は先月より4ポイント下がって33%。昨年9月の内閣発足以来最低となった。NNN・読売の方は37%で先月と変わっていない。通常であれば、NNN・読売は日曜の午後6時から放送するバンキシャの中で数字を発表する。6月の読売の世論調査の速報が6月6日だったため、今月は11日のバンキシャの番組中に報道されるだろうと待機したが、肩透かしだったので不思議に思っていた。非常に変則的な形で、翌日の月曜の夜中に数字を出す進行となり、裏に何か理由があったのだろうと推測する。読売は自民党の広報機関紙だ。邪推するなら、集計された生の結果が悪すぎたため、官邸に先に報告して、鉛筆を舐めて下駄を履かせる程度を相談していたのだろう。とりあえずNHKの結果を見て、そのバランスで数字を調整しようという算段になったのではないか。が、これまた奇妙なことに、そこから半日経った13日早朝に、東京に限れば内閣支持率は28%だという記事が読売から出た。
こんな報道は世論調査では異例だ。想像たくましく勘ぐりを拡大させてもらえれば、おそらく、支持率の公表値「37%」での妥協を牽引したのは日本テレビの方で、読売新聞の方は、それは納得できない、そこまで加工したらフジ産経と同じ捏造になるじゃないかと抵抗したのだろう。菅義偉によるマスコミ支配は、総務省管轄の事情と経緯があって新聞社よりもテレビ局の方が私物化が甚だしい。13日に出た「東京での内閣支持率28%」という報道は、読売新聞側の意趣返しと読者へのエクスキューズ(⇒弁明)であり、日テレとの暗闘の結果であり、最低限のジャーナリズムの良心の証明ではなかったかと勝手に想像する。普通に考えて、東京で内閣支持率が28%なのに、地方を含めた全国で37%になるなどあり得ない。基本的に、東京は日本の中で最も自民党の勢力が強く、ネオリベ政策が強力に支持されている土地柄だ。地方紙が独自に県内の世論調査を行った場合は、全国紙よりも圧倒的に低い内閣支持率が示されることは、これまでも幾度か報告されている。格差社会のアッパークラスが集中する東京は、ネオリベ自民政権(安倍・菅)の牙城であり、世論調査でも国政選挙でもその民意がストレートに反映されていた。
したがって、NNN・読売が12日深夜に出した「支持率37%」は大いに疑うべきなのだが、それ以上に、今回のNNN・読売の世論調査で注目させられたのは、無党派層の71%が菅内閣の不支持だと回答した点である。この事実には仰天させられたし、この数字を読売が出してきたのにも驚かされた。通例のマスコミ世論調査では、政党支持層別のクロスまで細かく分析されない。明らかに報道側に特別な意図があることが窺える。つまり、自民党広報紙と一般に揶揄され、かく本質と性格を看做されている読売新聞が、菅内閣は無党派層から支持されてないぞという現実を突きつけているのだ。これはすなわち、自民党支持者や関係者に対するメッセージの発信であり、このままでは衆院選で自民党が危ないという危険信号の投射である。そう意味を捉えられる。政治のエレメンタリー(⇒初歩的)な常識であり鉄則だが、無党派層の支持を受けた方が選挙で勝つ。無党派層から支持されなかった側が必ず負ける。グラフを見た現職の自民党議員やその関係者は青ざめたことだろう。彼らは、実力もないのに、安倍晋三の風と勢いだけで選挙に連勝してきた者たちだ。
普通に考えれば、解散を2か月後の9月前半に控えたタイミングで、この厳しい数字を読売が身内に示したということは、菅義偉では選挙を戦えないから「顔」を変えろという意味になる。そのように解釈できる。読売新聞はいわば自民党の組織の一部で、自民党支持者に日報を刷って配っている情報機関だから、受け取った方は深刻だろう。コロナ禍の政治環境では、感染者数が増えるほど内閣支持率が下がり、感染者数が減れば支持率が回復する。第五波は始まったばかりで、東京の繁華街・歓楽街の人出は減少傾向になっておらず、感染拡大が素早く収まる兆しはない。過去の経験から予測すれば、ピークは7月下旬から8月上旬で、東京での1日の感染者数が1000人を超える日が何日も続くだろう。大衆が感染禍の日常に慣れ、緊急事態宣言が出ても人流が止まらない現状を考えると、8月下旬になっても感染状況はステージ4の水準のまま続くと予想される。次回のNHKと読売の世論調査は8月9日に出る。その時点の感染状況を想定すれば、内閣支持率はもっと下がっているに違いない。その頃には、東京で医療逼迫 - 重症病床が満杯で搬送入院ができない - が起きているはずだ。
さて、西村康稔が酒提供の飲食店に圧力をかける発言をして非難を浴びている問題だが、事件が発生した先週8日から5日経っても、6日経っても、真相を解明し正しく解説しようとするジャーナリズムがないことに唖然とする。多額の報酬をもらって仕事しているマスコミ政治記者、政治のプロを自認している業界論者、そしてツイッター空間の大物アカウントたちは、どこに目をつけ何をしているのだろう。この飲食店圧力政策が政府の正式な機関決定であり、西村康稔の思いつきや暴走の類ではないことは論を俟たない。然らば、どのようなプロセスで決まり、誰がいつ発案して政策化されたものなのか。その次第進行を追跡する必要がある。簡単な検証作業で証明できることなのに、それを行う者がいない。前のブログ記事で紹介した朝日の10日の社説のように、西村康稔の単独プレーの失態として済ませ、菅義偉の関与と差配を隠して免責している。ようやく、13日夜にAERAが記事を出し、7日夕に官邸で行われた関係閣僚会議の資料を入手したとして、「『飲食店対策のための関係機関として金融機関』が明記された資料が配られ、説明がなされた」と内幕を書いた。政府決定である証拠を掴んで報道した。
だが、前のブログ記事で説明したとおり、7日夕の官邸での関係閣僚会議というのは、午後7時前後のわずか数分間のものであり、それは首相動静を確認すれば分かる。実際には、その前日の6日昼の関係閣僚会議こそが重要で、同じメンバーで、午後3時過ぎから4時過ぎにまでわたって、1時間をかけてミーティングしている。この会議の中で飲食店への締めつけ策が協議されたのだ。翌7日の数分間の会議は、確かに資料は出ていてエビデンスとして重要だが、金融庁と国税庁に根回しして文書通達する行政指導が施策化されたことをフォローアップする場であり、だから数分間で終わっている。杉田和博が菅義偉に「万事手配しました」と報告して終わりだったのだろう。重要なのは6日の1時間の会議で、着目するべきは6日の会議に官房副長官補の藤井健志が出席している事実である。マスコミ報道に登場する「内閣官房」とは、藤井健志(財務官僚)のことだ。この男が、6日の会議の後、国税庁と金融庁に根回しして指示を下ろし、国税庁と金融庁の了承と実行計画を7日午前までに取り、首尾を杉田和博と加藤勝信に報告したのである。内幕のプロセスというのは、首相動静の記録を見れば手に取るように分かる。
国税庁はすぐ動き、8日付の行政文書(=「事務連絡」)を作成して、酒類中央団体連絡協議会に発信した。即座に圧力をかける行動に出た。金融庁の方はすぐに動かず、8日時点で文書発送を完了させず、9日に問題になった直後にTBSの取材を受けて事実関係を白状している(普通なら匿名でもこんな事は簡単にマスコミに喋れず、喋れば菅義偉の怒りを買って左遷される)。二つの官庁で対応が分かれた。なぜこの違いが出たかというと、おそらく、藤井健志の前職が国税庁長官(佐川宣寿の後釜)で、国税庁に懇ろな子分が密だったからだろう。今回の問題は、西村康稔ばかりが矢面に立って集中攻撃されているけれど、一面で財務官僚内部のドタバタ劇であり、一部財務官僚による菅義偉への造反の側面を否めない。10日に国税庁の文書を暴いてネットに上げたのが玉木雄一郎だったことも、偶然の事情ではあるまい。簡単に観測すれば、菅義偉の財務官僚方面へのグリップが効かなくなっている。金融庁の官僚は、藤井健志から指示を受けたとき、菅義偉の命令だからと応諾しつつ、「それは『優越的地位の濫用』になるんじゃありませんか」と危惧を返したのではないか。
飲食店に国税と金融機関から圧力をかけるという策は、菅義偉本人の着想と指示であり、首相動静を読み返すかぎりその構図しか考えられない。6日の時点で菅義偉が関係閣僚に提案し命令したのだ。6日というのは火曜日で、都議選で小池百合子に惨敗した2日後である。早い。都議選惨敗の結果を受け、これでは蔓延防止措置の延長では持たぬと判断、4度目の緊急事態宣言に踏み切る腹を固め、実効策の中身をどうしようかと焦ったのだろう。相談した相手は、おそらく内閣官房参与(感染症対策)の岡部信彦だ。他に相談する相手はいない。そこで、岡部信彦から、酒と会食をやめさせるのが一番ですと助言されたのではないか。ではどうやって酒の提供を根絶させるか。そこから先は菅義偉の発想であり、菅義偉らしい思考回路と意思決定の所産であり、他の人間からはこのような無茶な強権策は出ない。恫喝と脅迫の剥き出しの強制案は出ない。これを官邸会議で直に聞いたときは、藤井健志も西村康稔もビビっただろうし、官僚の感性で大丈夫かなあと懸念を覚えたことだろう。尤も、官僚でも一人だけ、学術会議人事のファッショ的無法強権を実務したゲッベルスの杉田和博は、「総理、これは妙案だ。効果てきめんです」と相槌を打ったかもしれない。
以上がこの事件の真相の推理である。野党は、閉会中審査でこの問題を追及するなら、内閣官房副長官補で行政文書発信の実務を仕切った藤井健志を国会に召喚しなければならない。公取法違反の疑いがある。証人喚問せよ。