2021年7月13日火曜日

13- 北海道新聞記者逮捕に関しての声明 日本新聞労連

 旭川医科大学で622日、学長選考会議を取材していた北海道新聞の新人記者が大学職員に取り押さえられ、24日午後まで記者が北海道警察に身柄拘束された事件で、日本新聞労連が声明を出しました。

 この件についてはJCJ(日本ジャーナリスト会議)が抗議声明を出しています。
      ⇒7月11日)JCJ声明 北海道新聞記者の逮捕に抗議する
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北海道新聞記者逮捕に関しての声明
                                                              2021年7月12日
                                                             日本新聞労働組合連合
 北海道旭川市内にある旭川医科大学で6月22日午後、学長選考会議を取材していた北海道新聞の記者が大学職員に取り押さえられ、北海道警察は大学関係者が現行犯逮捕したと発表しました。記者は24日午後まで身柄拘束された後、釈放され、現在は在宅で捜査が続いています。また、北海道新聞社は7月7日、社内調査報告を北海道新聞に掲載しました。

 旭川医科大では当日、パワーハラスメントなどで問題となった吉田晃敏学長の解任を巡って会議が開かれており、北海道新聞社の社内調査報告では、当該記者は指示を受けて構内に入ったことや、無断録音、職員に発見された際の対応について掲載されています。現時点で明確な表現を避け、あいまいな点もあります。発生から2週間後に公表された今回の調査結果は残念ながら組合員らの期待を裏切るものであり、現場に責任を押し付けるばかりか、自らの責任逃れが滲んでいます。新聞労連は、新聞記者を含む多くの現場労働者が加盟する労働組合として、このような不十分な中身の報告書を看過できません。

 社内調査報告では当該記者が業務命令を受けていたことが明確になりました。いうまでもありませんが、業務命令に基づき遂行されていた業務についての責任は原則として会社にあります。社内調査報告では編集局長名で、「記者教育や組織運営のあり方などを早急に見直し」「一線の記者たちが安心して取材できる環境をあらためてつくる」と表明されています。そうであるならば、情報共有や指示の不徹底、新人記者を単独で立ち入り取材させたことなどの「全責任は会社にある」と明確に示すべきです。報告では「取材方法を指導するべき報道部の部次長や、報道部の業務全体を統括する部長の関与が不十分だったと考えています」という表現にとどまり、現場に責任があると言わんばかりです。このような見解は、北海道新聞労働組合の組合員に対してだけではなく、社会に対して「新聞社はいざとなれば記者、従業員を守らない職場」という誤解を与えることにつながりかねません。

 実名報道に至った経緯、逮捕そのものへの評価を含めて明らかにし、その上で業務命令に従った記者を守る姿勢を示すべきです。会社の責任の明確化、再発防止といった観点から、会社側は自らの責任を問う形で明らかにすべきです。また、研修後に現場に立って2カ月程度という経験の浅い記者をそもそも相手とのトラブルが予想されるリスクある取材に行かせてしまったというのは、現場判断よりもっと上の、使用者としての会社側の労務管理上の問題があると言わざるを得ません。

 報告では、記者同士の情報が十分共有なされなかった点を問題視していますが、見落としてはいけないのは背景にある「大学の過剰な取材規制」です。そもそも6月18日に別の道新記者や他社の記者と大学との間に取材トラブルがあったことに関し、大学側の過剰な取材規制に対して、抗議に結びつかなかったという観点こそが問題です。その反省がなされないまま、「取材手法」「記者教育」「情報共有」などを軸として、自社の記者に対する大学による逮捕を安易に受け入れる形で報告書を締めくくったことが、大いなる疑問です。

 当該記者は建造物に「正当な理由なく侵入した」として、逮捕されました。公共機関による「施設管理権」はあったとしても、一方でメディアには憲法21条の「表現の自由」に則って、「知る権利」に応え、行政機関など公的機関に対する説明責任を求めていくという社会的役割があります。北海道新聞社編集局長のコメントでは「メディアの側からすれば旭川医科大の取材対応は十分とは言い難いものがありました」とされ、調査報告では「これまでも入構禁止になっていたが、慣例的に自由に立ち入って取材をしていた」と記されています。

 これらを踏まえ、新聞労連は、取材中の記者を大学関係者が現行犯逮捕した今回の事案について、行き過ぎ」だと考えます。取材中の記者に対する身柄拘束の必要性は改めて検証されるべきものです。ジャーナリズムを担う我々の業界で、このような問いかけや検証がなされないことによって、取材活動の萎縮を招き、国民の「知る権利」が後退することを危惧します。

 取材手法について、法を侵してまで取材するのはおかしい、という意見は承知しております。記者が身分を名乗らない、入構禁止の要請を見逃していたなどの部分はあるかもしれませんが、重要な取材対象である限り、取材を拒否されても対象に可能な限り迫ることは新聞記者の常であり、場合によっては使命であるはずです。「施設管理権」を根拠として記者が公的機関に立ち入ることができないということが一般化してしまえば、取材の自由、報道の自由は形骸化し、それにより犠牲となるのは国民の知る権利です。

 新聞労連は、さまざまな声を真摯に受け止めながら、北海道新聞の個別ケースとしてではなく業界における課題として、取材手法や記者教育、取材に対する規制について議論を深めていく所存です。

 今回の事案でもっとも大切なのは、会社の業務命令に従って取材をしていた当該記者を含めた現場の組合員を守ることです。関わった組合員個人に責任を負わせるべきではなく、北海道新聞社、ひいては業界全体が考えるべきものです。新聞労連としても、組合員に寄り添い、守るとともに、今回の事案について検討、議論を続けます。
                                     以上