内閣府は、生産性向上などで高成長を実現し歳出改革を続ければ25年度時点の基礎的財政収支の黒字化が「視野に入る」、とした中長期の経済財政試算を発表しました。
菅首相はそれを受けて、早速「25年度に黒字化を実現する姿が示された」と述べたということです。しかし試算の赤字額が1月の前回試算より半分以上減少したのは。一部の大手企業の業績が好調で20年度の税収が想定より上回ったことが理由で、「財政健全化の見通しがついた」とするのは現状を甘くみたもので国民を偽っていると、信濃毎日新聞は指摘しました。
試算は、国内総生産(GDP)の成長率を実質2%、名目3%を前提としていますが、実質が2%を超えたのは過去10年間で1度だけなので、人口減が進む中でデジタル化や地方活性化、子育て政策への投資を進めても達成は厳しいだろうと述べています。
自分の思い込みだけで政治をするのはもうゴメンです。
信濃毎日新聞の社説を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
〈社説〉経済財政試算 楽観視するにも程がある
信濃毎日新聞 2021/07/25
恣意(しい)的と言わざるを得ない。
内閣府が示した中長期の経済財政試算である。生産性向上などで高成長を実現し、歳出改革を続ければ、2025年度時点の基礎的財政収支の黒字化が「視野に入る」とした。
基礎的財政収支は、社会保障や公共事業といった政策経費を、税収などの基本的収入でどの程度賄えているかを示す。財政の健全度合いを示す重要な指標である。
試算の赤字額は2兆9千億円程度で、1月の前回試算より半分以上減少した。一部の大手企業の業績が好調で、20年度の税収が想定より上回ったことが理由だ。
政府は25年度に黒字化する目標を掲げる。菅義偉首相は試算について「25年度に黒字化を実現する姿が示された」と述べている。財政健全化の見通しがついたと強調したいのなら、現状を甘くみて国民を偽っている。
試算が前提とする国内総生産(GDP)の成長率は実質2%、名目3%だ。実質が2%を超えたのは過去10年間で1度だけだ。人口減が進む中でデジタル化や地方活性化、子育て政策への投資を進めても達成は厳しいだろう。
専門家には今後10年間は年平均で実質1%程度の成長を予測する声が多い。内閣府は高成長が実現しない場合は30年度までの試算期間中、黒字化は見込めないとする。この試算が妥当ではないか。
懸念されるのは、楽観見通しに基づき、政府の歳出削減への取り組みがおろそかになることだ。
秋までに行われる衆院選や来年の参院選を前に、与党にはコロナ対策を名目に数十兆円規模の経済対策を求める声が強まっている。
生活に困窮する人や、営業継続が困難な企業には早急な支援が必要だ。ただし、選挙対策のために経済対策の規模拡大を図り、必要性を精査しないまま予算を計上することはあってはならない。
政府が20年度に3回編成した補正予算計約73兆円のうち、概算で3割弱はまだ使われていない。公共事業や脱炭素社会の実現に向けた2兆円の基金、中断したままの観光支援事業などだ。
財務省は22年度予算の概算要求基準でもコロナ対策に上限を設けない。対策を名目に関係の薄い事業まで要求することにならないか。厳しい査定が欠かせない。
20年度はコロナ対策などで新規国債を112兆円発行し、国の借金に当たる「長期債務残高」が1千兆円の大台に迫る。つけは将来世代に回ることを重視し、現実を直視した財政運営が不可欠だ。