政府は「陸上イージス」の国内配置が不可能になったのを受けて「イージス・システム搭載艦」式に変更しました。しかし肝心のレーダー「SPY7」はまだロッキード・マーチン社が構想中の段階のもので試作品もできていません。それなのに政府はその導入経費の名目で既に277億円(3月時点)も支払っています。
またイージスを搭載する艦艇は、レーダー「SPY7」のサイズが大きいため、従来のイージス艦より大型化する必要がありますが、長期間洋上で安定的に運用するため「多胴船」型案も浮上するなど、まだその基本構想もまとまっていません。当然費用も莫大になります。
しんぶん赤旗が取り上げました。
レーダー「SPY7」採用に関わる不明朗な事情については2月9日、共産党の穀田恵二議員が国会で追及して問題になりました、
⇒(2月11日)代替イージス“ロッキード社製採用せよ”と米ミサイル庁長官が極秘来日
ところで1兆円以上が掛ると見込まれるこのイージスシステムが実際にミサイル迎撃に有効であるのかについては、単に不明であるたけでなく「機関銃の弾丸をピストルで撃ち落とそうとするもの」などと否定的な情報に事欠きません。
最近もミサイル迎撃実権に失敗したという下記の短い記事が載りました。ミサイル実験は準備万端整えて行うものでなので相当自信を持って臨んだ筈ですが、それでもこの体たらくなのがその実態を示しています。
ミサイル迎撃実験に失敗 米軍 時事通信 2021-05-31 |
元外交官の孫崎享氏も、
「大陸間弾道ミサイルの速度は秒速2~3km。これに対しイージス・アショアの迎撃ミサイルは秒速340m程度で、飛来するミサイルの方が迎撃ミサイルの速度よりも5倍以上ある。迎撃ミサイルが300km飛ぶ間に、北朝鮮からのミサイルは1500km飛ぶので、相手がミサイルを発射する前に迎撃ミサイルを発射しなければならない」と述べています(東京・平壌間1290km、秋田・東京間300km)
⇒(18.7.26)グローバルホークもイージスアショアも役に立たない
双方のミサイルの衝突予定点に、双方のミサイルとも1m程度の誤差以内で、時間的に1/1000秒以内の誤差で到達しないと衝突しません。これでは当たると考える方が無理です。
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「イージス・アショア」破綻 断念後も負担277億円
しんぶん赤旗 2021年7月11日)
既成事実化狙う
防衛省、破滅的支出に突進
防衛省は昨年6月に陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」(陸上イージス)の配備を断念した後も導入経費を支払い続け、今年3月で277億円に達したことが分かりました。代替策の「イージス・システム搭載艦」の総経費は1兆円を超える可能性もあり、与野党から批判が出ています。同省は支払いの継続で代替策を既成事実化し、後戻りできない状況に持ち込む狙いです。(竹下岳)
防衛省によれば、「イージス・アショアとして支払った額」は▽17年度=米政府などからの情報取得費約27億円▽18年度=基本設計や地質測量経費約5・4億円▽19年度=イージス・システム本体の取得費約97億円、レーダー取得費約65億円、その他0・6億円―となっています。
20年度に入り、政府は陸上イージスの配備断念に伴い、本体取得費の支払いを停止しました。ところがレーダーへの支払いは停止せず、前年度の65億円とあわせ、144億円を支払っています。その他経費とあわせ合計277億円を米側や国内企業に支払い済みだとしています。
防衛省が取得を進めているレーダーは、米軍需企業ロッキード・マーチン社製の「SPY7」です。SPY7はまだ試作品もできていないものですが、同省は導入に固執。陸上イージス断念後も、直ちにSPY7の「利活用」を表明しています。その背景として、米ミサイル防衛庁がSPY7導入で不当な働きかけを行った可能性が指摘されています。
SPY7を艦船に搭載する「イージス・システム搭載艦」は、総経費で陸上イージスを大きく上回ります。しかし、自民党への配布資料では、SPY7などの契約を解除すれば「サンクコスト(回収できない経費)が発生」すると説明。“もう後戻りできないのだから支払いを続けるしかない”と開き直り、破滅的な支出に突き進もうとしています。
「イージス・システム搭載艦」 既に“座礁”
金額示せず 艦の設計図もまだ
自衛隊元幹部からも相次ぐ異論
防衛省は、秋田、山口両県への配備を断念した陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」(陸上イージス)に代わり、米ロッキード・マーチン社製のSPY7レーダーを搭載する「イージス・システム搭載艦」を採用する方針を決めました。6月18日の自民党国防部会では、米海軍が採用したレイセオン社製のSPY6レーダーと比較して、性能・経費ともに優れていると説明しましたが、その内容は欺瞞(ぎまん)に満ちています。
疑惑解消されず
防衛省は2018年6月~7月にかけて、SPY7と6を比較選定し、性能・経費両面で「より高い評価を得た」として、SPY7を選定しました。しかし、米海軍が既に採用していたSPY6ではなく、試作品さえできていないSPY7の選定には疑問が相次ぎ、1970年代の自民党政権とロッキード社の癒着・汚職事件になぞらえ、「第2のロッキード事件」との見方も広がりました。
決定打となったのが、日本共産党の穀田恵二議員の2月9日の衆院予算委員会での追及です。レーダー選定直前に、米ミサイル防衛庁のグリーブス長官(当時)が防衛省を訪れ、ロッキード社製レーダーの採用で圧力をかけたとの証言を暴露したのです。岸信夫防衛相も長官の訪問を認め、「ロッキードありき」との批判が高まりました。
こうした経緯を踏まえ、防衛省は自民党国防部会への説明資料で「米海軍の協力を得て、SPY6…に関する情報を収集」したと説明。「探知距離・高度や同時対処能力など」でSPY7が優れているとしています。米海軍を持ち出して、「公平性」の演出を図ったとみられます。
これに関して、イージス・レーダー選定疑惑に関する野党合同ヒアリングに出席した坂上芳洋元海将補は見解を公表し、SPY7が性能で優位だといえる「具体的な根拠がない」と批判。米海軍が本当にSPY7を推奨したのか疑問視し、「部局・階級氏名・調整結果などを記した米海軍との議事録を公表すべきだ」と求めています。
経費をめぐっても、説明資料は、SPY7が「相対的に安価」だとしています。しかし、あくまでSPY6との比較にすぎず、実際の金額については「数値化困難」などとして明らかにしていません。岸氏も国会で「説明責任を果たす」と答弁していながら、閉会まで一切明らかにしませんでした。防衛省は陸上イージスを大きく上回る「総額9000億円超」との報道を否定しておらず、実際は1兆円を超えることは確実です。
しかも、イージス・システム搭載艦はSPY7の搭載に特化したもので、能力面でも疑問の声が相次いでいます。ある自衛隊元幹部は、現場が望まない兵器の導入で「孫子の代まで負担を押し付けるのは痛恨の極み」だと述べます。
計画大幅遅れも
米海軍のSPY6は24年に初期運用能力(IOC)を獲得し、実戦配備される予定です。一方、SPY7について説明資料は、「順調に進んでいる」と述べるだけで、設計・試験・開発のどの段階にあるのか全く示していません。それにもかかわらず、SPY7の方が「早く納入される」と断定しています。
防衛省はその根拠として、ロッキード社がSPY7と類似の技術を使って開発し、米アラスカ州に配備される次期固定式警戒管制レーダー「LRDR」が今年、IOCを獲得する予定だと説明しています。しかし、米政府監査院は今年4月の報告書で、LRDRの配備日程が1年以上遅れるとの見通しを示しています。
そもそも、LRDRとSPY7は電波を発するブロックが異なるなど「全くの別物」(前出の坂上氏)です。
それに加えて、迷走しているのが「艦」の選定です。当初は最新鋭のイージス艦「まや」型をベースにする見通しでしたが、長期間、洋上で安定的に運用するため、「多胴船」型案も浮上。検討に時間がかかっています。
防衛省は5月、「イージス・システム搭載艦の検討に関する技術支援役務」など3件について、三菱重工業、ジャパン・マリンユナイテッド、三井E&S造船と計約16億円で契約を締結しましたが、契約期間は22年4月および23年3月までとなっています。「艦」の選定・設計に相当の時間がかかる可能性もあり、22年度概算要求への計上は困難視されています。
それでも、防衛省はレーダー導入経費だけは粛々と支払い続けているのです。
中止以外にない
陸上イージスが破綻したのに、「何が何でもロッキード社のレーダー」という呪縛にとらわれ、つじつま合わせを繰り返し、時間も経費も浪費している―これが事の真相です。イージス・システム搭載艦は、設計図さえできていないのに、既に“座礁”しています。これ以上、傷口を広げないため、計画を中止する以外にありません。
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イージス・アショア 米軍が主導する「ミサイル防衛」網の一環。トランプ前米政権の“米国製武器爆買い”要求を受け、安倍前政権が2017年12月に2基の導入を決定。秋田・山口両県の自衛隊演習場への配備を決めたものの、ブースターが演習場外に落下する可能性があり、20年6月に配備を断念。同年12月、陸上イージスで使用を予定していたSPY7レーダーを搭載する「イージス・システム搭載艦」の導入を閣議決定。