2021年7月16日金曜日

「黒い雨」二審も勝訴 原告全員を被爆者認定 国は上告せず救済急げ

 「黒い雨」訴訟は、国が、原爆投下直後に降った放射性物質や火災によるすすを含む雨を浴びて被曝した範囲を、爆心地から北西方向に東西11km、南北19kmの楕円形に限定(←被爆直後の混乱期に限られた人手で行われた)し、その外にいる人たちを被爆者援護対象に認めなかったために、範囲外とされた84人の住民が起こしたものです。

 一審の広島地裁は国の認定の不合理性を指摘し原告勝利の判決を下し、14日に下された広島高裁の控訴審判決も、原告全員に被爆者健康手帳交付を命じた広島地裁判決を支持し、県、市および厚労相による控訴を棄却しました。
 同判決は、内部被曝による健康被害の可能性を一審の広島地裁より前向きに認定し、被爆者援護の救済対象を広げるよう行政に求める画期的な判断を示したもので、原告団や弁護団評価しました。
 一方国は広島地裁で敗訴後、黒い雨の降雨範囲を再検証する有識者の検討会を設け議論を進めてますが、そこでは国の審議会に多用される「身内」の委員が10万人以上が犠牲となった東京大空襲との兼ね合いを考える必要性を指摘するなどして1980年の国の私的諮問機関「原爆被爆者対策基本問題懇談会」(基本懇)の意見書を重視する発言を重ねているということで、基本懇の結論を踏襲しようとする政府の意図は明瞭です。
 新型コロナ対応でも政府・厚労省は、既に時期を逸した「ワクチン頼み」以外には何も見るべき対策を講じないまま、第4波のピークを超える事態に至っています。一体何のための国・厚労省なのでしょうか。
 国は前記のような姑息な策動は止め、県と市の願いに従い上告すべきではありません。
 しんぶん赤旗、中國新聞、東京新聞の記事を紹介します。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「黒い雨」二審も勝訴 広島高裁 原告全員を被爆者認定
                       しんぶん赤旗 2021年7月15日
 広島への原爆投下直後に降った放射性物質を含む「黒い雨」を浴びたのに国の援護対象外とされた地域の84人が、広島県と広島市に被爆者健康手帳などの交付却下処分の取り消しなどを求めている「黒い雨」訴訟の控訴審判決が14日、広島高裁でありました。西井和徒裁判長は、原告全員に被爆者健康手帳交付を命じた広島地裁判決を支持し、県、市および厚生労働大臣による控訴を棄却しました
 裁判所前では「全面勝訴」の手持ち旗が掲げられると、強い日差しの中待ち受けていた原告や支援者らは、大きな拍手と歓声を上げ、喜び合いました。
 西井裁判長は、黒い雨に直接打たれた者は無論のこと、たとえ黒い雨に打たれていなくても、空気中に滞留する放射性微粒子を吸引したり、放射性微粒子が混入した飲料水・井戸水を飲んだり、野菜を摂取したりして放射性微粒子を取り込むことで、内部被ばくによる健康被害を受ける可能性があったと認定。その上で、原告らが被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」だと認めました


社説 「黒い雨」原告再び勝訴 国は一刻も早い救済を
                            中國新聞 2021/7/15
 広島への原爆投下後に降った放射性物質を含む「黒い雨」を巡る全国初の訴訟で、救済に後ろ向きな国を、司法が再び断罪した。国は、その重みをしっかり受け止めなければならない。
 広島高裁はきのう、原告全面勝訴の判決を出した。内部被曝(ひばく)による健康被害の可能性を一審の広島地裁より前向きに認定。被爆者援護の救済対象を広げるよう行政に求める画期的な判断だと言える。原告団や弁護団の高い評価も、うなずけよう。
 訴訟の最大の争点は、黒い雨が降ったと国が考える区域の線引きが妥当かどうかだった。広島高裁は、その線引きより広い範囲で黒い雨が降ったと推し量るのが相当と判断した。
 国が線引きの根拠とした調査については、一審から「被爆直後の混乱期に限られた人手で実施された」など範囲やデータの限界が指摘されていた。高裁が認めなかったのも当然だろう。
 原告が被爆者援護法で定める「被爆者」に当たるかどうかという争点では、高裁は思い切った判断を示した。たとえ黒い雨を浴びていなくても、空気中の放射性微粒子を吸い込んだり飲料水に混入したのを飲んだり野菜に付着したのを食べたりして内部被曝による健康被害を受ける可能性があると指摘した。
 健康被害の恐れが否定できない限り、広く救済すべきだという判断のようだ。原爆特有の放射性物質による健康被害が、他の戦争被害とは異なる点を考慮して制定された被爆者援護法の趣旨を踏まえたに違いない。
 その上で、判決は、国の線引きの外で黒い雨を浴びるなどした原告も被爆者だとして、被爆者健康手帳を交付するよう広島市と広島県に対して命じた

 地裁での敗訴から1年、国は住民の訴えに真剣に向き合ってきただろうか。この間、線引きを再検証する有識者の検討会を設け、議論を進めている。
 しかし積極的に救済する気があるか、疑念が拭えない。というのも一部の検討会委員の発言に違和感を覚えるからだ。例えば委員の一人は10万人以上が犠牲となった東京大空襲との兼ね合いを考える必要性を指摘し、原爆被害の特別視を否定する。「黒い雨」の線引きがテーマなのに、なぜ東京大空襲との均衡論を持ち出すのだろう
 理由は容易に推測できる。この委員は、国の審議会に多用される「身内」である。今回の検討会でも、国の私的諮問機関「原爆被爆者対策基本問題懇談会」(基本懇)が1980年に答申した意見書を重視する発言を重ねている。意見書は、被爆者と認める区域の拡大は「科学的・合理的な根拠のある場合に限定して行うべきだ」と、国の思惑通りの指摘をしている。
 「黒い雨」問題でも国は、広島市や県の降雨区域拡大の要求をはねのける「盾」として、基本懇の意見書を使ってきた。それを支持してくれる委員は大歓迎だろう。だが、国はいつまで、私的諮問機関にすぎない基本懇の意見書を金科玉条にしておくつもりなのか
 間もなく原爆投下から76年になる。高齢化が進む原告にとって救済までの時間は限られている。国は原告をはじめ、黒い雨を浴びた人たちを幅広く、しかも迅速に救済しなければならない。そのためにもまず、上告断念を決断すべきである。


<社説>「黒い雨」判決 上告せず国は救済急げ
                         東京新聞 2021年7月15日
 原爆投下後、国が定めた援護対象区域の外で、放射性物質を含む「黒い雨」=写真、「黒い雨のあとの残った白壁」(八島秋次郎氏寄贈、広島平和記念資料館所蔵)=を浴びた住民が、一審に続き二審でも裁判所に「被爆者」と認められた。上告せず、国が一刻も早く救済に動くべきだ。
 国は爆心地から北西方向に東西十一キロ、南北十九キロの楕円(だえん)形の範囲内を援護対象区域として、黒い雨を浴びた人たちを被爆者認定していたが、原告たちはこの外にいたため、認められなかった。この区域は、被爆直後の混乱期に、限られた人手で集められた聞き取り調査のデータを基にしている。
 その後、二〇一〇年、広島市などが、黒い雨は援護対象区域の六倍もの広い範囲で降っていた、との調査結果を発表した。八十四人の原告は原爆投下時、全員がこの範囲内に所在しており、二審広島高裁は、原告の法廷供述などから「全員が黒い雨に遭った蓋然(がいぜん)性(可能性)がある」と述べ、古い線引きに依拠し過ぎた国の援護政策を批判した。
 また、一審に続いて二審も、「内部被ばく」を認めた。放射性物質に汚染された黒い雨水を「被爆直後ののどの渇きを癒やすために飲んだ」「黒い水が掛かった畑の野菜を食べた」などとの原告の訴えを聞き入れた
 国は一審判決を「被爆者と認めるには、科学的知見による高いレベルの証明が必要」と批判して控訴したが、二審は「健康被害を否定できないことが立証されればよい」として退けた。一審よりもさらに原告に寄り添った判決だ。
 原爆投下から七十六年。原告らの平均年齢は八十代半ばになった。一審敗訴の後、国は降雨域と健康影響を検証する有識者検討会を設置、中間まとめを今月出すとしているが、提訴からの六年で、原告のうち既に十四人が亡くなっている。残された時間は長くない。
 原告らの法廷供述や司法の判断を国は重く受け止めるべきだ。上告はせず、被爆による健康被害に長い間苦しんできた原告らの救済を最優先してほしい。