2021年7月20日火曜日

「努力しても報われない」人たち 〜 映画『東京クルド』

「努力しても報われない」人たち”という副題がついたドキュメンタリー映画『東京クルド』緊急公開されました。

 主人公の、川口に住むクルド人の2人の青年幼い頃にトルコから来日し、家族そろって難民申請したものの認められなかったため、在留資格がなく仮放免という、就労不可、社会保障制度からも排除された無権利状態で暮らしています。
 それでも学校には通えるので中学まではいじめに遭いながらもどうにか居場所があるのですが、高校になると様相は一変します。
 高校生になってアルバイトをしようにも就労不可。肝心の進学では、就職率を競う専門学校では、就労不可の仮放免者は門前払いされてしまいます。そして入管へ出頭入管職員と面接しなければなりません。そこで「どうせビザは出ないのだから、いくら勉強をがんばってもムダ」など暴言を吐かれます。
 就労不可、住民票はなし、社会保障制度、公的支援も対象外奨学金は利用不可という完全無権利状態に置かれ、学校を卒業すれば入管施設への収容の危険性も出てきます。
 収容先の名古屋入管で3月に亡くなったスリランカ女性ウィシュマ・サンダマリさんの事件で、入管法の冷酷さが改めて浮き彫りになりましたが、同じように、悲惨を絵に画いたような現実が、難民申請が認められなかった人たちの一人ひとりに存在していることが分かります。
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「努力しても報われない」人たち〜
    ドキュメンタリー映画『東京クルド』緊急公開
                松本浩美 レイバーネット日本 2021年7月19日
 『東京クルド』観てきました! 「努力すれば報われる」「自分の道は自分で切り開く」。よく聞く言葉ですが、この当たり前だと思っている言葉が、まったく通用しない現実が描かれています。
 主人公は川口に住むクルド人の2人の青年、ラマザンとオザン。幼い頃にトルコから来日し、家族そろって難民申請するも認められず、在留資格なし。仮放免という、就労不可、社会保障制度からも排除された実質無権利状態で暮らしています。稲葉奈々子さんという移民研究者が、仮放免の子どもについて語った言葉があります。「普通子どもは成長するにつれて、できることが増えていく。しかし、仮放免の子どもの場合、成長するにつれて、できることの選択肢が減っていく」。まさに、その残酷な現実がこの映画のテーマの一つです。
 在留資格がなくても、子どもたちは学校に通うことはできます。そのため、日本語がわからなくていじめられたりしながらも、一生懸命頑張って言葉を覚えて、どうにかクラスでの居場所を獲得して、スポーツや部活でがんばったりする子どもたちも少なくありません。しかし、高校になって進路を考えなければならなくなると、様相は一変します
 高校生になってアルバイトをしようにも就労不可。肝心の進学では、就職率を競う専門学校では、就労不可の仮放免者は門前払いされてしまいます。そして、入管への出頭。幼い頃は入管への出頭は免れるケースは多いのですが、高校生になると入管職員と面接しなければなりません。そこで、どうせビザは出ないのだから、いくら勉強をがんばってもムダ」などと嫌がらせのような暴言を吐かれるのです。
 さらに、学校を卒業すれば、入管施設への収容の危険性も出てくるのです。彼らは「日本にいてはいけない人」。だから、就労不可、住民票にも記載されず、社会保障制度、公的支援も対象外。だから、高校生になっても奨学金は利用できません。家計補助のバイトもできません。学校でいじめにあいながらもがんばってきて、自分の特技を発見したとする。しかし、そのためにがんばっても、日本にいることすら危うい。そもそも仕事ができないのだから。サッカー選手になりたい。幼稚園の先生になりたい。看護師になりたい。子どもはいろいろな夢を描きます。でも、社会からは「ここにはお前たちのいる場所はない。出ていけ!」と言われる。

 この映画に出てくる2人の青年のうち、1人のラマザン君とは何度か話をしたことがあります。聡明なうえイケメン、しかもおしゃれ。どこにでもいる青年なのですが、抱えているものはものすごく重い。この映画はたくさんの人に見てほしいと思っています。日本人はもちろんですね。あと、個人的に外国ルーツの人にも見てほしいと思っています。特に、2世の人。
 2人の青年は幼い頃に来日しました。彼らの親1世とのコミュニケーションなど、もしかしたら相通ずるものがあるのかな、とも感じます。彼らは日本語の読み書きもできて、言葉も流暢にしゃべれる。1世の親も少しはしゃべれるけれども、子どもたちほどではない。1世は生活に手いっぱいで、子どもたちの教育のことも気にはなるけれども、どうしても後回しになってしまう。2世の彼らは、周囲の日本人の子どもたちと自分たちの境遇を比べてしまう。
 とにかく、描かれるているのはつらい現実なのだけど、たくさんの人に見てほしいと思っています。たくさんの人が共感すれば、それが希望につながります。なぜなら、私たちが声をあげて、動かなければ、現実は変えられないからです。日本には、この映画に出てくる無数のラマザンとオザンがいるんです。
                *2021年製作/103分/監督 日向史有 
                 シアター・イメージフォーラム(渋谷)で上映中