先の通常国会ではデジタル改革関連法や土地規制法などが拙速審議で成立しました。
特定商取引法・預託法の改正もそのひとつで、デジタル化の掛け声の下、契約書面の電子化が盛り込まれました。これは訪問販売や電話勧誘販売、マルチ商法など消費者トラブルが起きやすい特定取引を規制する特商法に逆行するもので、安易な契約による被害者増を招くものです。
マルチ商法などの被害に遭っても特に高齢者はなかなかそれに気が付きません。おかしいと感づくのは大抵家族で、契約書があればそれをチェックすることで国民生活センターに相談するなどの対応が取れます。しかし契約書が印刷されていないと家族にはその内容が分かりません。契約をプリントアウトしないまま、契約関連の電子ファイルをパソコンやスマホの何処に保存したか分からなければ、もう対処のしようがありません。2週間で契約文書を消去する(ホームぺージなどからアクセスできなくする)業者もいるということです。
日刊ゲンダイが、先の参院本会議で「被害を拡大するマイナス改定だ」と反対討論に立った共産党の大門実紀史議員に直撃インタビューしました。
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注目の人 直撃インタビュー
共産党・大門実紀史議員がズバリ指摘 「契約書面デジタル化」は消費者保護に逆行する
日刊ゲンダイ 2021/07/05
大門実紀史(日本共産党参議院議員)
野党の延長要求に応じず、先月閉じられた通常国会では菅首相肝いりのデジタル改革関連法をはじめ、世論の反発が強い土地規制法なども拙速審議で成立した。特定商取引法・預託法の改正もそのひとつだ。デジタル化の掛け声の下、契約書面の電子化が盛り込まれた。訪問販売や電話勧誘販売、マルチ商法など消費者トラブルが起きやすい特定取引を規制する特商法に逆行するため、批判が高まっている。安易な契約による被害者増を招く懸念が大きいからだ。参院本会議で「被害を拡大するマイナス改定だ」と反対討論に立った議員に問題点を聞いた。
*インタビューは【動画】でもご覧いただけます
■電子化で被害拡大の懸念
――国会審議が進むにつれ難点が浮かび上がり、参院採決では立憲民主、共産、社民の野党3党が反対。消費者保護を目的とする法改正で賛否が割れる異例の事態となりました。
与党自民党と野党共産党がバーンと対決する場面はたくさんありますが、特商法・預託法改正に関しては違う話なんです。契約書面の電子化を除けばいい改正で、当初は消費者団体の方々も喜んでいた。悪質なマルチ商法を展開したジャパンライフが悪用した販売預託商法の原則禁止や、一方的に商品を送り付けて代金を請求する「送り付け商法」の規制なども含まれています。特商法改正に契約の電子化が潜り込まなければ、猛反対は起きなかったと思います。
――消費者の承諾を条件とするものの、業者が電子メールなどで契約書面を送り、ワンクリックでサインしたら成立というのは、簡単過ぎます。
私はジャパンライフ問題をずっとやってきたんですけれど、契約書が紙でも電子でも、騙される人は騙されます。ですが、オンラインですべてが完結してしまうと、被害が増える懸念が大きい。ひどいケースでは、業者がメールにURLを記載して自社サイトなどに消費者を誘導し、そこで契約書面にサインを求めるというやり方をし、2週間以内にダウンロードしなければ消去されてしまったりする。そんなのが山ほどある。保存したとしても、パソコンやスマホのどこにあるのか分からない、消去しちゃった、なんてことも起こり得る。僕らでもそうでしょう。
■井上消費者相の点数稼ぎでねじ込まれた
――高齢者ならなおさらです。
書面契約の場合はハンコを取りに行く間に考え直すこともあるし、「娘にいっぺん相談してみるわ」と思いとどまることもある。時間があれば被害を回避するチャンスが生まれるんです。「いいものを紹介された」「いいことをやっている」と信じ込んでいることについて、本人は被害に遭っているとはなかなか気が付かない。おかしいと感づくのは、たいてい家族なんです。娘さん、息子さんが「なんでこんなにお金が減ってるの」となり、本人が「なんでもない」と言っても、契約書を探り当てる。内容を見るとおかしい。それで国民生活センターに相談する。弁護士に相談した方がいいと勧められ、業者を訴える。しかし、書類に基づかないと訴えることができません。デジタル化は普通は便利ですよね。ただ、特商法の世界には騙されている人がいっぱいいる。だから、契約にはできるだけ時間をかけ、じっくりと内容を確認するプロセスが大事で、わざわざ書面契約を義務付けてきた。それを解禁したら、周囲が被害に気付いたり、訴える機会が失われかねません。
――法案がまとめられた経緯の不透明さを国会で追及されました。井上消費者担当相がいきなりねじ込んだと。
井上大臣の点数稼ぎですよ。菅さんのデジタル戦略に合わせよう、率先してウチは紙をなくすんだ、という感じでね。内閣府の規制改革推進室が省庁にペーパーレス化を求めているのは事実ですが、全省庁が紙をなくすわけではない。契約関係の書類を多く抱える財務省をはじめ、これはできません、というものが各省庁から出てきている。にもかかわらず、消費者庁は特商法でもやります、と自らやっちゃった。
菅首相は「承知せず」、自民党内でも「なぜ」
――規制改革推進室の事務方も「あらかじめ想定せず、調査対象ともしていなかった訪問販売や電話勧誘販売などの取引についても、法改正で対応予定だと消費者庁から積極的にお知らせいただいた」と国会答弁。消費者庁はこれまで、経済界が契約書の電子化を求めても「消費者保護を後退させる」として反対してきたのに、突然の方針転換でした。
昨年2~8月に消費者庁内で設けられた法改正についての有識者検討委員会では、議題にすら上らなかった。だから、消費者団体などもいい改正になるだろうと期待していたのです。流れが変わったのは、菅政権発足以降。オンライン英会話学校の事業者から「サービスはオンラインで完結するのに、なぜ契約は書面でかわす必要があるのか」という話があり、昨年11月に開かれた規制改革推進会議成長戦略ワーキング・グループの議題に上ったんです。コロナ禍でもあるし、確かに不合理ではないか、という意見が出て、消費者庁に対してデジタル化に向けた検討を求めた。すると消費者庁は、今年1月に全面解禁に向けた法改正に動き出したんです。
――その間、何があったんですか。
昨年末という話ですけれども、消費者庁の担当者が井上大臣に、オンライン英会話のようなケースには電子化を認める方向で法案に入れたい旨を報告すると、「やるなら全部やれ」「言われたことだけをやるんじゃない」「言われなくても、今はやるべきなんだ」という趣旨の指示があったと。事務方は、訪問販売から電話勧誘まで特商法の全分野について契約書面をデジタル化できる法案をまとめるよう指示を受けたと。大臣の指示によるものだという理由は2つあります。担当者が第三者機関である内閣府の消費者委員会メンバーに「大臣の意向です」とポロポロ漏らしていた。説明がつかなかったんですね。私も担当者に聞いたところ、「一部の電子化は整合性が取れないので全部やることにしました」「菅政権の方向性ですので、大臣からも全部について考えるように言われました」と。こういうやりとりを何度もしています。
■政省令で歯止めをかけるアベコベ
――反対討論では井上大臣の一連の答弁について、「3つのゴマカシがあった」と迫っていました。「消費者の利便性向上のため」「規制改革推進室から求められた」としていたのはデタラメで、消費者委から正当なお墨付きを得たかのように説明していたと。
被害の多い訪問販売などで利便性が高まっては困るし、自分から言い出したことを他省庁の事務方の責任にするのはみっともない。消費者委についても、反対や慎重意見が多数を占めていて、電子化に誘導したのは消費者庁から送り込まれた事務局長だった。井上大臣に「あなたの指示でしょう」と二度三度質問しましたが、否定はしませんでしたね。財政金融委員会の方に菅さんが出席したことがあったので(3月26日)、契約のデジタル化について聞くと、そこまでは知らないと。
――菅首相は「正直承知していませんでした。ただ、当然、本人の同意、それと歯止めだとか、そういういろんなことがあるんだろうと思います」「ご指摘をいただきましたので、そこについてはちょっと考えさせて、検討させていただきたい」と答弁しました。
「そこまでやれと言った覚えはない」という意味ですよね。後日談ですが、自民党内でも「なぜこんなものを出したんだ」という声が上がったそうです。1月に急きょ入れ込まれ、3月に閣議決定。閣議決定は重いですから、政府のメンツにも関わるので、法案の大幅削除は難しい。当初案のまま進んでいれば、全会一致で通っていたはずです。
――2年以内の施行を控え、政省令で被害拡大に歯止めをかけるアベコベ措置が検討される中、消費者庁の相談に乗っているそうですね。
被害を防止する方法は2つしかありません。契約に至る過程のどこかに紙を介在させる。例えば、契約方法についての承諾書の書面送付。紙をなくすと言いながら、バカみたいですが、書面契約と同じ効果を求めるのなら、どこかに紙を介在させるしかない。あるいは、電子契約には第三者を介在させる。これは今までにないことで、家族などの関与を必要とさせる。政省令でかんじがらめにすれば、解禁しないのとほぼ同じ。問題部分をスパッと削除する改正案を通すのが一番ですが。
(聞き手=坂本千晶/日刊ゲンダイ)
▽大門実紀史(だいもん・みきし)1956年、京都市生まれ。神戸大経済学部中退。2001年の参院選(比例代表)で初当選し、現在4期目。参院党国対副委員長。