五輪・パラリンピック開会式・閉会式の演出トップである小林賢太郎氏に約20年前のコントでの問題発言が発覚し、急遽解任されることになりました。問題になったのは、小林氏がラーメンズ時代、自作コントのなかで「“ユダヤ人大量惨殺ごっこ”やろう」というセリフのあるギャグを作っていたことでした。
これに対して脳科学者の茂木健一郎氏はSNS上で、〈コメディを、文脈から切り離してこのように取り上げることに私は断固反対。小林賢太郎さんがどのようなクリエイターか、わかっているはず。著しくフェアでない〉と述べました。一般的にはその通りなのですが、この場合そう言い切れるかは疑問です。
LITERAが「 ~ 問題人選続発の背景に政権とメディアの“差別・歴史修正主義”蔓延」とする記事を出しました。
その中で
「佐々木宏、小山田圭吾、のぶみ、そして今回の小林賢太郎と、五輪メンバーに人権意識を欠いた差別発言が発覚したのは偶然ではない。本サイトが繰り返し指摘してきたことだが、日本のお笑いやテレビバラエティは人権意識に薄く、差別的なネタが平気で横行している。
ところが、安倍政権以降、歴史修正主義と差別排外主義まるだしで、芸術文化に無教養な連中が政権に蔓延るようになった関係で、そうした人権意識や歴史認識に欠けるお笑いやテレビ、バラエティ出身、サブカルチャーの人間に公的な仕事をさせるようになった。その流れがそのままオリンピックに持ち込まれてしまったのだ」
と述べています。
東京五輪に関する演出陣をめぐって、これほど集中的に問題が出た背景には確かにそれがあると思われます。
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五輪開会式演出の小林賢太郎が“ユダヤ人大量惨殺”ギャグで解任! 問題人選続発の背景に政権とメディアの”差別・歴史修正主義”蔓延
LITERA 2021.07.22
開会式作曲担当の小山田圭吾、東京五輪の文化プログラムに出演する予定だった絵本作家・のぶみに続いて、今度は開会式・閉会式の演出トップであるショーディレクター・小林賢太郎に問題発言が発覚。報道では、開会式前日にもかかわらず、急遽解任されることになったらしい。
問題になったのは、小林がラーメンズ時代、自作コントのなかで「“ユダヤ人大量惨殺ごっこ”やろう」というセリフのあるギャグをつくっていたことだった。
問題のコントは20年ちょっと前のもので、NHKの人気教育番組『できるかな』をパロディにしている。小林が「ノッポさん」に、片桐仁が「ゴン太くん」に扮し、以下のようなやりとりが展開される。
片桐「来週、何やるか決めちゃおうね。そういうことはちゃんとやんなきゃダメだから。何やる、何やる?」
小林「ああ、じゃあ、トダさんがさ……ほらプロデューサーの。『つくって楽しいものもいいけど、遊んで学べるものもつくれ』って言っただろ? そこで考えたんだけど、野球やろうと思うんだ。いままでだったらね、新聞紙を丸めたバット。ところが今回はここにバットっていう字を書くんだ。いままでだったら、ただ丸めた紙の球。ここに『球』っていう字を書くの。そしてスタンドを埋め尽くす観衆。これは人の形に切った紙とかでいいと思うんだけど、ここに『人』って字を書くんだ。つまり文字で構成された野球場をつくるっていうのはどうだろう?」
片桐「いいんじゃない? ちょっとやってみようか。ちょうどこういう人の形に切った紙いっぱいあるから」
小林「本当? ああー! あの“ユダヤ人大量惨殺ごっこ”やろうって言ったときのな」
片桐「そーうそうそうそうそう! トダさん怒ってたなあ」
小林「『放送できるか!』ってな」
ネットなどに流れている当該コントの内容を確認する限り、ユダヤ人大量虐殺=ホロコーストに、「ごっこ」と付けて矮小化し、何の批判もなくただ笑いにしているだけ。
SNS上では、脳科学者の茂木健一郎氏が〈コメディを、文脈から切り離してこのように取り上げることに私は断固反対。小林賢太郎さんがどのようなクリエイターか、わかっているはず。著しくフェアでない〉とツイートしたのをはじめ、お笑いのネタまで問題にするのはおかしい、という擁護論も出ているが、オリンピック・パラリンピックという大会の性格、そしてユダヤ人虐殺の歴史的な経緯を考えれば、非難され、解任されるのは当たり前だろう。
ユダヤ人差別やホロコースト正当化に厳しい抗議をしてきたサイモン・ウィーゼンタール・センターが声明
しかも、SNSでこの問題が話題になり始めたのは昨日の深夜だが、今日の未明に、ユダヤ人人権団体で、これまで日本のメディアや有名人によるユダヤ人差別や陰謀論、ナチスドイツ肯定論などに激しい抗議をしてきたことで知られるサイモン・ウィーゼンタール・センター(SWC)が以下のような抗議声明を出していた。
〈SWCは東京オリンピック開会式のディレクターによる反ユダヤ発言を非難する
2021年7月21日
サイモン・ウィーゼンタール・センターは、東京オリンピック開会式のショー・ディレクターを務めるコメディアンの小林賢太郎氏が過去に行った反ユダヤ的なジョークや、障がい者へのいじめなどを非難します。
報道によると、小林氏は1998年に、彼のコント(コメディ)のために、ナチスによる600万人のユダヤ人大虐殺をネタにしました。その際、「ユダヤ人大量惨殺ごっこやろう(=Let's play Holocaust )」など、下劣な反ユダヤの冗談を言っていました。小林氏は、障がい者に対しても不快な冗談を言ったと報告されています。
誰であろうと、どんなにクリエイティブでも、ナチスの大虐殺の犠牲者をからかう権利はありません。ナチス政権は、障がいのあるドイツ人もまたガス室で虐殺しました。
「この人物がどんな形でも東京オリンピックに関わることは、600万人のユダヤ人の記憶を侮辱し、パラリンピックを残酷に嘲笑することになるでしょう」とSWC副所長兼グローバル・ソーシャル・アクション・ディレクターで、ラビであるアブラハム・クーパー氏は述べています(太字は原文のもの)〉
中山泰秀防衛副大臣がサイモン・ウィーゼンタール・センターと連絡か 発覚後数時間で
いずれにしても、今回は、あらゆる差別に反対することを憲章に掲げたというオリンピック・パラリンピックという公的で世界的な大会の開会式演出の総指揮に、明らかに国際感覚、人権意識の欠如したギャグをやっていた人間が付いていたという話なので、非難をされ、解任されるのは当たり前なのだが、驚いたのは政府や組織委の対応の素早さだ。
小山田圭吾のケースは、問題がSNSで話題になってから、一旦は留任を発表するなどし5日もかかったのに、今回は半日も経たないうちに解任の報道が出た。本サイトが調べた範囲だが、時系列で振り返ってみよう。
★21日22時25分ごろ
芸能ニュースサイト「GEINOU」が〈ユダヤ人大量惨殺ごっこ> 五輪開会式演出・小林賢太郎に浮上した「ホロコーストいじり」の過去〉という記事を配信
★同日22時45分「実話BUNKAタブー編集部」のTwitterアカウントが〈五輪開会式ディレクターのラーメンズ・小林賢太郎さんが、「ユダヤ人大量虐殺ごっこをやろう」とホロコーストをネタにしてる動画です〉という投稿とともに問題のセリフが出てくる箇所の動画をツイート。
★22日1時11分、7.7万フォロワーのTwitterユーザーが以下の投稿
〈東京五輪競技大会開会式及び閉会式制作・演出チームのメンバーに選出された【小林賢太郎氏】の【ユダヤ人】に関する過去の発言について……中山防衛副大臣@iloveyatchanに相談させて頂きました。すぐにご対応くださるとのことです。小林賢太郎氏についての投稿は念のため削除しておきます。〉
★同日2時17分 中山泰秀防衛副大臣が上記ツイートに以下の返信
〈ご連絡頂きありがとうございました。早速サイモンウィーゼンタールセンターと連絡を取り合い、お話をしました。センターを代表されるクーパー師から、以下のコメントがありましたので、ご報告します。〉
★同日3時10分 中山防衛副大臣がサイモン・ウィーゼンタール・センターの抗議文を以下の通り掲載
〈A person no matter how creative has no right to mock the victims of the Nazi Genocide. Nazi regime also gassed people with disabilities. Any association of this person to the Tokyo Olympics would insult memory of 6million innocent Jews and make a cruel mockery of the Paralympics.〉
〈(Google 自動翻訳)⇒ どんなに創造的であっても、ナチス虐殺の犠牲者をあざける権利はない。 ナチス政権はまた、障害を持つ人々をガス処刑した。 この人物が東京オリンピックにかかわることは、600万人の無実のユダヤ人の記憶を侮辱し、パラリンピックへの残酷な嘲笑を引き起こす。〉
★同日3時56分 サイモン・ウィーゼンタール・センターの公式TwitterアカウントがHPへリンクを貼るかたちで抗議声明掲載をお知らせ
〈SWC Condemns #Antisemitic Remarks by Director of Opening Ceremony of Tokyo #Olympics2021〉
佐々木宏、小山田圭吾、のぶみ、小林賢太郎と同様の問題が続発しているのは偶然ではない
これも見て注目すべきは、サイモン・ウィーゼンタール・センターが抗議声明を出す前に、中山防衛副大臣と同団体の間で連絡を取り合っていることだ。ツイートを見る限り、深夜、中山副大臣がユーザーの通報を受けてすぐにSWCに連絡して、はじめてSWCが把握したようにも見える。
中山防衛副大臣は以前、自らのTwitterにイスラエルとパレスチナの戦闘を巡って「私たちの心はイスラエルと共にある」と露骨なイスラエル寄りの投稿をして問題になったことがある。深夜に連絡を取り合ったところを見ても、SWCなどの団体と太いパイプがあるのだろう。
いずれにしても、SNSで話題になった数時間後に政府関係者が動き出した。そして、今朝から政府や組織委とサイモン・ウィーゼンタール・センターの間で対応の話し合いが進められ、早々に解任という結論を出したということのようだ。
小山田問題と段違いのこの素早い対応の背後には、ユダヤ人差別問題だったからという事情もあるはずだ。ユダヤ人差別やホロコースト正当化は、欧米や日本でも他の差別問題よりも素早く厳格な対応がなされ、メディアでは最大のタブーと言われている。SWCの厳しい抗議が展開され、スポンサー企業の世界的な不買運動にもつながりかねない。
ましてや、今回は世界中から視線が集まり、多くのグローバル企業のスポンサードを受けているオリンピックの開会式を演出指揮する人物の問題ということで、すぐに動かざるを得なかったのだろう。
そういう意味では、今回の素早い対応は、けっして組織委や政府が人権意識に目覚めたということではない。
そもそも問題はそれ以前、組織委がまたまたこういう人選をしてしまっていたということにある。佐々木宏、小山田圭吾、のぶみ、そして今回の小林賢太郎と、五輪メンバーに人権意識の欠いた差別発言が発覚したのは偶然ではない。本サイトが繰り返し指摘してきたことだが、日本のお笑いやテレビバラエティは人権意識に薄く、差別的なネタが平気で横行している。ところが、安倍政権以降、歴史修正主義と差別排外主義まるだしで、芸術文化に無教養な連中が政権に蔓延るようになった関係で、そうした人権意識や歴史認識に欠けるお笑いやテレビ、バラエティ出身、サブカルチャーの人間に公的な仕事をさせるようになった。その流れがそのままオリンピックに持ち込まれてしまったのだ。
SNSではこのゴタゴタに「日本の恥」という言葉も飛び交っているが、この五輪の状況こそが、いまの日本の政治と文化を忠実に反映していると言っていいかもしれない。 (編集部)
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。