2021年7月24日土曜日

東京五輪ついに開幕 世界も、国民も「安全・安心」と思っていない中で

 菅義偉首相は、21日配信された米紙ウォールストリートジャーナルでのインタビューで、「五輪をやめることは一番簡単なこと、楽なことだ」とした上で「挑戦するのが政府の役割だ」と語りました。そしてコロナの感染拡大が続く中での東京五輪開催を、感染者数は欧米諸国に比べわずかで「予防対策も徹底している」ので「正しい判断」だと断言しました。五輪が始まれば国民は熱狂する筈という自信があるのでしょう。

 開会式直前の演出スタッフの辞任・解任騒ぎは、五輪の理念とは無縁のメンバーに大事な式典を任せた電通のセンスと倫理観を疑わせるものですが、同時に五輪組織委が「一切丸投げ」の体質であることも明らかにしました。
 海外選手団からは、選手村の居室のシャワーが出ない、トイレが少ない、ベッドが段ボール製などの不満や、海外メディアからも、プレスセンターでのランチがすべて1600円と高価なのに、内容が極めて貧弱だというクレームが出ているようです。これらは五輪招致時に強調した「おもてなし」に反するものです。
 「バブル形式」も不完全で選手村でコロナ陽性者が続出していて、米代表の体操チームは入村拒否してホテルに切り替えました。

 米紙ワシントン・ポスト(電子版)は17日、国民はコロナ禍での開催を強行するIOCの“ぼったくり”体質や菅政権の傲岸不遜な姿勢に反発を強め、「完全な失敗に向かっているように見える」「熱気は不満、無関心、ついには敵意に変わった」と分析しました。
 海外も同様の思いのようで、開会式に来日する首脳級は15人程度と最低に留まりました。G7の首脳では 次期2024年五輪開催国の仏マクロン大統領ただ1人でした。
 IOC委員など“五輪貴族”当初は1万人規模と見込まれていましたが、フタを開ければ約950人ほどでした海外は決して、菅氏が主張するように東京五輪が「安全・安心」の下に開かれるとは見ていないということです。
 英紙フィナンシャル・タイムズ「東京五輪は菅首相のためだけに開催されている」と痛烈に批判しました。
 前出のウォールストリートジャーナルは、インタビュー記事、菅首相が「競技が始まり、国民がテレビで観戦すれば、考えも変わるとして自信を示した」と述べています。
 菅氏はその固定観念から抜けられないようですが、五十嵐仁法大名誉教授は、
「首相が夢を見られるのも今のうち。肝心のコロナ対策は五輪ありきで後手後手、場当たり、相次ぐ醜態噴出にも責任を回避。『やれば盛り上がる』と国民を見下し、無理と嘘を重ねた五輪強行への反感と憎悪は、テレビで競技を観戦しても晴れはしません」と述べています。
 日刊ゲンダイの記事を紹介します。
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国民にケンカを売っているのか 東京五輪ついに開幕 これで菅政権はご臨終
                       日刊ゲンダイ 2021年7月23日
                       (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
「五輪をやめることは一番簡単なこと、楽なことだ」――。21日掲載の米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)のインタビューで、高慢ちきな精神論をブチかました菅首相。そんなに簡単なら「今からでも中止しろ!」が、国民の切なる願いだろう。
 史上まれに見る“バカの祭典”が、とうとう始まる。新型コロナウイルスの影響で史上初の延期となった東京五輪は23日、これまた史上初となる無観客での開会式を行い、開幕。土壇場まで続くあり得ないような混乱と大会組織委員会のポンコツぶりは、まさに歴史に汚点を残す愚劣の極みだ。
 開会式の楽曲を手がけた「障害者への長期虐待自慢」の小山田圭吾氏に続き、22日は式典の制作・演出を担当した小林賢太郎氏が過去のコント「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」を巡って解任。国際的な人権感覚も常識もない「異常な国ニッポン」を世界中にさらけ出し、演出全体の見直しを迫られた。
 目玉式典の実施形態が前日になっても定まらない異常事態も、むろん五輪史上初。「多様性と調和」の理念とは程遠いメンツ⇒メンバーに大事な式典を任せた組織委幹部や、マーケティング専任代理店の電通のセンスと倫理観を疑う。本紙も散々「史上最悪の大会」と批判してきたが、想定の斜め上をいく醜態ぶりだ。
「バブル形式」をうたった選手村でも新型コロナ陽性者が続出。22日の男子サッカー日本対南アフリカ戦のように、濃厚接触者が開始ギリギリまで出場可能か判明しないケースも生じている。

大会への「挑戦」は単なる「挑発」
 クレー射撃女子・スキートの世界ランク1位の英代表をはじめ、出発前や来日後の検査で陽性となり、欠場を余儀なくされる選手も目立つ。全競技が予定通りに進むのかさえ、いまだに暗中模索の状況だ。
 バブルがはじけた選手村は即クラスター化の危うい環境で、ついに米代表の体操チームは入村拒否を決断。菅が念仏のごとく繰り返した「安心安全な大会」は開幕前から、とうに崩壊している。
 都内の感染拡大のスピードも止まらない。医療崩壊を招いた「第3波」以来の2000人超えも時間の問題で、重症病床の使用率は「ステージ4」(感染爆発)をゆうに突破。21日にあった都のモニタリング会議では、8月上旬に1週間平均の感染者数が約2600人になると予測され、専門家は「2週間を待たずに第3波をはるかに超える危機的な感染状況になる」と警鐘を鳴らした。
 ところが、菅は脇目もふらず、WSJの取材に「やめるのは簡単」とホザき、「挑戦するのが政府の役割だ」とまで言ってのけた。国民が感染大爆発の恐怖におののき、大会期間中の医療崩壊が予期される中、大事な医療資源を割いてまで五輪に挑まれるなんてタマらない。菅の言う「挑戦」とは単なる国民への「挑発」。ケンカを売っているに等しい。
 売られたケンカを買うまでもなく、国民は不支持どころか、五輪に敵意を抱く人もいる。“バカの祭典”を見つめる海外の視線も冷ややかだ。

3兆円も投じバカさ加減を知らしめる大会
 米紙ワシントン・ポスト(電子版)は17日、「完全な失敗に向かっているように見える」と東京五輪を論じるコラムを掲載。コロナ禍での開催を強行する国際オリンピック委員会(IOC)の“ぼったくり男爵”や菅政権の傲岸不遜な姿勢に、国民は反発を強め、「熱気は不満、無関心、ついには敵意に変わった」と分析していた。
 五輪スポンサーの国内大手紙以上に、よっぽど国民の気持ちを代弁しているではないか。いくら菅に「希望と勇気を世界中にお届けできる」とイキがられても、国民の大半は「絶望と不安」しか感じられないのだ。
 海外VIPも同様の思いのようで、開会式に合わせて来日する外国政府や国際機関の首脳級は15人程度にとどまる。2012年のロンドン大会は約80カ国・地域の首脳級が出席。ジカ熱や政情不安もあった16年のリオ大会でさえ、約40カ国から参加していたのに、その半分にも満たないミジメさだ。
 6月にあった英G7サミットで菅は「全首脳から(五輪開催に)大変力強い支持をいただいた」と胸を張ったが、その場にいたメンバーで来日するのは、24年にパリ五輪を控えるマクロン仏大統領のみ。華やかな「五輪外交」や「祝祭ムード」なぞ望むべくもない。
 IOC委員など“五輪貴族”の開会式出席も、フタを開ければ約950人ほど。当初は1万人規模と見込まれていたが、逆風に尻込みした結果だろう。はたして参加がはばかられる五輪の開催に意義はあるのか。
「あるわけがない」と、東京五輪関連の著書がある作家の本間龍氏はこう語る。
「3月に海外客受け入れを断念した時点で、インバウンド需要を失って経済効果はパー。国際交流の理念も遠ざかり、約7万人の大会ボランティアも本来なら無用です。『復興五輪』の建前だって、国内外から多くの人が被災地を訪れなければ、復興に向かう姿や難題山積の現状を知ってもらえない。むしろ、コロナ禍での開催強行によって『おもてなし』の精神は消え、逆に街中で外国籍の大会関係者を見れば感染を警戒する偏見すら助長させています。そんな気持ちを国民に抱かせただけでも大失敗。ダメ押しが歴史的汚点ラッシュの開会式で、国民の多くは『次はもっと悲惨なことが起きやしないか』と不安に駆られていると思う。3兆円もの巨費を投じて、世界に日本のバカさ加減を知らしめるだけの大会なら、やるせない気持ちになります」

テレビで観戦しても晴れない反感と憎悪
 こんな五輪に誰がした。開催しても日本人の誇りを失わせるだけ。そんな「負のレガシー」は願い下げである。
 大枚はたいたスポンサー企業もマーケティング上のリターンは皆無に等しい。むしろイメージ悪化のリスクにさらされ、トヨタは五輪関連CMの放送を中止。企業トップの多くは開会式出席を見送った。
 それでも菅はテコでも動かない。21日付の朝日新聞によると、ある現職閣僚は3度目の緊急事態宣言の際に「中止」を進言したが、菅は聞く耳持たず。この閣僚は「もうついていけない」と冷ややかに語ったという。
 閣内でも「孤立」を深めるポンコツに対し、「東京五輪は菅首相のためだけに開催されている」と痛烈に批判したのは、英紙フィナンシャル・タイムズだ。
「菅にとって、オリンピックは計算ずくの政治的ギャンブルだ。首相が欲しいのは、日本の金メダルラッシュに乗っかり、秋に行われる総選挙で自民党の勝利を獲得すること」とズバリ指摘したが、当の菅本人は悪びれもしない。
 前出のWSJのインタビューで「競技が始まり、国民がテレビで観戦すれば、考えも変わるとして自信を示した」という。つくづく、国民もナメられたものだ。
「菅首相の意地と生き残りのためだけの危険な賭けに、国民の命を巻き込むなんて絶対に許されない。無謀な大バクチに国民やスポンサー企業だけでなく、世界も敵視し始めています。首相が夢を見られるのも今のうち。肝心のコロナ対策は五輪ありきで後手後手、場当たり、根拠なき楽観論の無為無策で、相次ぐ醜態噴出にも責任を回避。『やれば盛り上がる』と国民を見下し、無理と嘘を重ねた五輪強行への反感と憎悪は、テレビで競技を観戦しても晴れはしません」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)
 すべてを敵に回して孤立する菅とその政権に残された道は弾圧か、総辞職か。いずれにせよ、五輪の開幕は菅政権にとって「ご臨終」を意味することになる。