2020年8月7日金曜日

07- 実際に受けてみて驚いたPCR検査までの遠回りな道のり(日刊ゲンダイ)

 日本における最近の感染者数は1日平均1400人ほどのペースです。累積数では第1波が沈静したとされる5月25日で約15,700人であったのに対して、8月5日は約42,500人と27倍になっています。
 ひと頃は「夜の街」が感染源とされましたが、対策らしい対策を打たないままに今では市中に広がって、8月以降は「夜の街」起因は数%で、経路不明が3分の2を占めています。
 いまやどこで感染しても不思議ではなく、決して他人事ではありません。
 その一方で日本の人口当たりのPCR検査数は世界で159番目です。

 万一、自分がコロナに感染したかも知れないとき、どうすればPCR検査を受けられるのか? これは切実な問題です。
 そんな疑問にヒントを与えてくれる記事:作家の奥野修司氏の体験記が、日刊ゲンダイに載りました。
 日本では第1波の時と同様 決して簡単には検査が受けられません。政府の説明とは裏腹に、保健所が関門になっている現実はほとんど当時と変わっていません。

 幸いに奥野氏は保健所が意外にあっさりとOKしたために検査を受けられましたが、これは例外的なケースのように思われます。
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日本でPCR検査が増えない謎を追う
実際に受けてみて驚いた PCR検査までの遠回りすぎる道のり
 奥野修司 日刊ゲンダイ 2020/08/04
 日本のPCR検査数は世界で159番目! こんな不名誉なデータが話題だ。コロナの感染拡大を抑え込みながら経済と社会を回すには、感染者をいち早く隔離・療養させるPCR検査の拡充が不可欠なのに、なぜ日本では遅々として進まないのか。国民注視の謎に作家の奥野修司氏が迫る  
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 先週、PCR検査を受けた。とはいっても濃厚接触者ではない。どうも風邪をひいたのか、体がだるく鼻水が出始めたうえに、37度前後の熱が4日間続いていた。風邪だろうと思いつつ、もし陽性だったら感染させる恐れを考えると気が気ではない。そこでPCR検査を思い付いたのだが、どう手続きすればいいか全くわからない。
 とりあえず自治体のホームページを開くと、事前に地元の医師の診断を受けて紹介された人だけを受け付けると書いてある。もし陽性だとしたら診療所なんかに行っていいのだろうかと不安になる。そのとき、今回の新型コロナウイルスの感染拡大を受けてオンライン診療を許可したという記事を思い出し、厚労省のサイトを探してみた。
「対応医療機関リスト」というのを開いてみると私が住んでいる自治体にもかなりの数がある。過去に診察を受けた診療所もあったので、そこへ電話を入れて事情を話したのだが、意外にも「うちは電話での診療はしておりません」というつれない返事。ええ! どうなってるの? と思いながら、厚労省のリストにも載っていると伝えたのだが、うちは知らない、PCR検査を受けるなら直接診断するというのである。

まだ生きていた「37・5度以上」の縛り
 仕方なく了承したが、診療所で体温を測ったら36度9分。医師は医療者向けのペーパーを取り出し、どこで感染したのかと尋ねるのだが、いや、陽性者と接触が確定しているわけではなく、何度か人に会ったあと、風邪の状態が続いていると説明した。すると、そのペーパーを見ながら「体温37・5度」「せき」「息苦しさ」「鼻汁・鼻づまり」「頭痛」「全身のだるさ」……などを順に尋ねた

 体温は最高37度で該当しない。当てはまるのは「鼻汁」と「だるさ」だけ。医師は「普通の風邪だね」という。新型コロナ感染を疑う条件から「37・5度以上の発熱」は削除されたはずなのに、医療の現場ではまだ生きていることに驚いた。これじゃ、検査数は増えないだろうなと思いつつ、風邪と言われて不安が解消されるわけではない。
 困った顔をしていると「保健所と相談します」と保健所に電話をしてくれたら、あっさりと受け付けてくれた。3月や4月のころとはずいぶん違うのを感じる。診療費は「院内トリアージ実施料」などがついて、保険負担額は2510円。

 翌朝の検査となった。検査はドライブスルー方式で、かかった時間は5分程度。2月に問い合わせたときは費用が4万円近かった記憶があるが、今回は保健所経由だったせいか無料だった。しかし地域によっては差があり、私のケースは非常に恵まれていたのかもしれない。

 奥野修司 ノンフィクション作家
▽おくの・しゅうじ 1948年、大阪府生まれ。「ナツコ 沖縄密貿易の女王」で講談社ノンフィクション賞(05年)、大宅壮一ノンフィクション賞(06年)を受賞。食べ物と健康に関しても精力的に取材を続け、近著に「怖い中国食品、不気味なアメリカ食品」(講談社文庫)がある。