急速に再拡大している新型コロナ感染症について、「指定感染症(第2類)」から外すことが提唱されています。特に臨床医の間でそうした声が少なくないということです。
「指定感染症」となると、罹患者は保健所、行政に届け出て、法に基づいて軽症者を含めて入院・隔離措置が取られます。第1波の時に病床が軽症者で占められたために、入院を要する中等症者・重症者の受け入れに医療機関が困窮した理由がそれでした。その後軽症者や無症者に対しては、ホテル等の隔離施設が利用できる便法が採られたのは合理的な措置でした。
ノンフィクションライターの窪田順生氏が、「いいことずくめの新型コロナ『指定感染症解除』に、厚労省が後ろ向きなワケ」とする記事を出しました。
コロナを「指定感染症(第2類)」から外せば、本当に治療が必要な重症患者に医療資源を集中できるし、感染防止のためのPCR検査体制の拡大も難なく実現できます。「いいことずくめ」と称する所以です。
現行法制下でPCR検査が制約を受けるのは、PCR検査は「行政検査」であってそれを行うには病院・診療所、地域外来・検査センターは地域の保健所と委託契約を結ぶことが求められているからで、保健所が認めた機関だけしかPCR検査(行政検査)をすることが出来ません。
保健所は陽性となった人の入院先への振り分けのほか、「クラスター追跡」という重労働も担っていて「超々多忙」と伝えられています。そこが「相談窓口」を務めれば、いきおいPCR検査の受診率は1~2%程度に抑えられてしまいます。PCR検査数がいまだに第1波時の3倍程度に留まっている理由もそこにあります。
そうであれば「指定感染症(第2類)」から外すことに保健所を含めて厚労省がもろ手を挙げて賛成しそうなものですが、現実はそうでなく、日本のコロナ対策の陣頭指揮をとっている厚労省(健康局結核感染症課)は決して認めようとしないということです。
6月12日に参議院厚労委で、新型コロナ感染症を指定感染症に指定し続けることのメリットを問われた厚労省健康局長は、「現在、その感染力とか罹患した場合の重症度などに係る知見を収集している段階で、次なる波に備えるために、引き続き、適切な感染防止策が講じるべく法的根拠をもって対応することが必要」と述べて指定を外すことに反対しました。
窪田氏の記事は、厚労省の出自にさかのぼって詳細に説いていますが、要するに「日本モデル」の感染データを全て厚労省と国立感染研究所のもとに集めようという強い意思を持っているため、感染症の指定を外す意思がないのだと述べています。
もしかしたら我々は、知らぬ間に「強い日本国」をつくるために厚労省が仕掛けた壮大な「人体実験」に、参加させられているのかもしれない・・・とも。
以下に紹介します。
追記)金子勝教授も、日刊ゲンダイのシリーズ「天下の逆襲」の記事「分科会に浮上『Go Toトラベル』前倒し実施に重大瑕疵疑惑」(2020/08/12)の中で、
<感染研はクルーズ船の食事係乗員の感染を把握しながら隔離も下船もさせず、船内感染を招いた。その観察記録を米疾病対策センター(CDC)の週報に投稿している。まるで人体実験論文だ>と述べています。
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いいことずくめの新型コロナ「指定感染症解除」に、厚労省が後ろ向きなワケ
窪田順生* ダイヤモンドオンライン 2020.8.13
*ノンフィクションライター
広がる「新型コロナを指定
感染症から外せ」の声
「新型コロナウイルスを指定感染症から外せ」という声が強くなってきている。
たとえば、国際政治学者の三浦瑠麗氏はSNSで、「指定感染症から外すか指定レベルを下げるべきだ」と主張。出演した『ワイドナショー』(フジテレビ系)でも同様の発言をされていた。
ダイヤモンド・オンラインでも、上久保誠人・立命館大学政策科学部教授が「コロナ抑制と経済を両立する『第3の道』へ、このままでは日本がもたない」(8月6日)の中で、新型コロナを「指定感染症」から外すべきと提言されている。この他にも、多くの有識者、政治家、そして医療関係者が、現在の「第二類相当の指定感染症」から除外するか、もしくは季節性インフルエンザと同程度の5類感染症扱いにすべきだという主張をしている。
という話を聞くと、「コロナを過小評価させて経済を優先させるつもりだろ!そんなバカな真似をしたら、死者が42万人に膨れ上がるぞ!」と、“解除論者”の自宅の玄関に「人殺し」などという張り紙をしたくなる方もいるかもしれないが、実は「経済より命を守れ」派の人たちにとっても、これは悪い話ではない。
今、マスコミが毎日のように報じる「このままいけばベッド数が足りません」という不安は、実はカップ麺やサキイカを買うために宿泊療養施設を抜け出すような、軽症患者たちまで感染症法に基づいてベッドに寝かせていることが原因として大きい。コロナを「第二類相当の指定感染症」から外せば、本当に治療が必要な重症患者に医療資源を集中できるのだ。
さらに言ってしまうと、「経済より命を守れ」派の人たちが渇望している「いつでも、どこでも、何度でも」というPCR検査体制の拡大も、「指定感染症から外す」ことで難なく実現できる。
8月5日、日本医師会は政府に『新型コロナウイルス感染症の今後の感染拡大を見据えた PCR等検査体制の更なる拡大・充実のための緊急提言』を提出した。その中で、今よりPCRの検査の数を増やすためには、以下のようなことが必要だと述べている。
「PCR等検査実施の委託契約(集合・個別)の必要がないことの明確化」
実は現行の検査体制では、PCR検査を行っている病院・診療所、地域外来・検査センターは、地域の保健所と委託契約を結ぶことが求められる。つまり、PCR検査とはあくまで「行政検査」であって、医療機関はそれを代行しているという建て付けなのだ。
「委託契約」で生じる医療の綻びを
保健所が食い止められないワケ
では、なぜこういう多重請負構造になっているのかというと、やはり新型コロナが「第二類相当の指定感染症」だからだ。結核やSARSなども含まれる第二類感染症は、感染症法に基づいて都道府県知事が定めた指定医療機関への入院、場合によっては隔離措置が取られる。そのため保健所としては、感染者の情報を自分たちでしっかりと管理したい。だから自分たちと委託契約を結んだ医療機関にしか、検査をさせないようにしてきた。
しかし、日医はその「委託契約」が不要だと述べている。それはつまり、保健所がボトルネックとなって、PCR検査を増やすことができないと言っているのと等しい。
コロナ対策で必死に頑張ってくれている地域の保健所を邪魔者扱いしているようなもの言いに、不愉快になる方もいるかもしれないが、これは保健所の職員がサボっているからとか、仕事ができないからという話ではない。もはや保健所はマンパワー的に限界だからだ。
4月にNHKが『誰かが倒れたら、もう終わり』(2020年4月2日)という保健所職員たちの悲痛な叫びを報じたが、そのブラックぶりはまったく改善されていない。7月22日の新型コロナウイルス感染症対策分科会でも、「一部保健所で対応逼迫」と指摘されている。
「だったら、委託契約する医療機関を増やせばいいのでは」と思うかもしれないが、この厳しい状況は、そういう話で解決できるものではない。それは、ブラック企業を思い浮かべていただければわかりやすいだろう。
あるところに、社員がバタバタと倒れるハードなブラック企業がありました。あまり社員から文句が出るので、社長は「だったら下請けを使え!これならお前らの負担も減るから、今よりたくさん仕事ができるだろ」と言って、社員の仕事をどんどん下請けに丸投げするようにしました――。
そこで想像していただきたい。この企業の社員たちはラクになっただろうか。答えはノーだ。丸投げとはいえ、仕事を委託するわけだから、基本的にはマネジメントはこちらがやらなくてはいけない。委託先から報告を受けて、その情報を集約するという新たな仕事も生まれる。つまり、どんなに下請けを活用しても、さばくことができる仕事量には限界があるのだ。
今のままで検査を増やせば
間違いなく破綻する
保健所におけるPCR検査の委託もまさしくこれと同じ構造である。
医療機関にPCR検査を委託しても、その結果を把握して、指定医療機関へ振り分けるなど、保健所がやらなくてはいけないことは山ほどある。つまり、どんなに委託先の医療機関を増やそうが、コロナが指定感染症である以上、保健所自身の仕事量が減るわけでないので、さばくことができる数には限りがあるのだ。
だから、ワイドショーのコメンテーターがどんなに「PCR検査を増やせ」と叫んだところで、一向に増えない。「安倍政権が感染者を少なく見せるために検査を抑えている」という話ではなく、これが保健所の処理能力の限界ということなのだ。
現場の医療従事者たちは、この構造的な問題を身をもって体験している。今の体制のまま検査数を増やせば、保健所は間違いなくパンクする。たとえるのなら、過労死続出のブラック企業に、国家プロジェクトを「あとはよろしく」と丸投げするくらいの無茶な話なのだ。だからこそ、日本医師会はかなりの危機感をもって、このような「緊急提言」をしたのではないか。
さて、このような話を聞いて皆さんはきっとこう思うはずだ。だったら、PCR検査を増やすためにも、医療従事者の負担を減らすためにも、そして保健所の膨大な業務で死にそうになっている人のためにも、新型コロナをサクッと指定感染症から外せばいいじゃないか、と。
ただ、これがなかなか難しい。日本のコロナ対策の陣頭指揮をとっている厚生労働省健康局結核感染症課が、決してそのような話を容認しないからだ。
6月12日に参議院厚生労働委員会で、現役医師でもある日本維新の会の梅村聡議員が、「厚生労働省としては、この新型コロナウイルス感染症を指定感染症にし続けて運用することのメリットというのは、逆にどういうことを感じておられるでしょうか」と質問をした。やはりこの運用が、保健所をはじめ医療現場を疲弊させているのでは、という問題意識からだ。すると、答弁に立った厚生労働省健康局長からこのような回答が返ってきた。
《この新型コロナウイルス感染症について、現在、その感染力とか罹患した場合の重症度などに係る知見を収集している段階でございますので、次なる波に備えるために、引き続き、適切な感染防止策が講じられた感染症指定医療機関等での入院措置とか、あるいは汚染された場所の消毒などの対応について、法的根拠をもって対応することが必要でございまして、少なくとも、現時点で直ちに指定感染症の指定を取りやめるというような状況にはないのではないか、というふうに思っております》
なぜ厚労省は新型コロナを
頑なに指定感染症から外さないのか
官僚らしいまわりくどい言い方だが、要約すると、「あのさあ、コロナ対策は国が法に基づいて進めるって決められてんだから、そんなことできるわけないでしょ」というわけだ。いずれにせよ、行間からは指定感染症から外すという考えは1ミリたりとも感じられない。
では、なぜ厚労省はそこまでしてコロナを指定感染症にとどめておきたいのか。いろいろなご意見があるだろうが、この組織の「出自」に関係しているのではないかと考えている。
実は、厚生労働省の前身である厚生省が1938年に設立された理由の1つは「結核撲滅」だ。当時、世界的に流行して、日本でも死亡率が高かったこの感染症に立ち向かうため、小泉親彦・陸軍省医務局長ら陸軍主導で組織された。当時の状況に詳しい書籍『結核と日本人 医療政策を検証する』(常石敬一著 岩波書店)の記述を引用させていただこう。
「厚生省ができるまで、日本で衛生行政の最前線を担ったのは警察だった。警察は内務省の管轄であり、学童や学生の健康維持・増進を受け持ったのは文部省だった。こうした縦割りに、ときにてんでんばらばらに進められていた衛生行政を、陸軍の力を使って一元化できないか、と小泉は考えた」(P.81)
徴兵検査の成績を上げるため
結核の撲滅に血道を上げた
では、陸軍の軍医はなぜそんなことを考えたのかというと、徴兵検査の成績を上げるためだ。小泉自身が作成したデータによれば、1930年当時、日本の結核死亡率は欧米に比べて突出して高かった。強い兵士をじゃんじゃんつくって戦地に送りこむには、「結核撲滅」が急務。そのために厚生省は生まれたのだ。
それを示すのが、厚生省が立ち上がった2年後の1940年5月1日から3カ月かけて行われた、全国民を対象とした大規模な健康診断だ。
「日本医師会医師四万人、産組中央会系病院百四十、済生会病院百廿、日赤系六十八病院の各医大もこれに参加し各府県の健康相談所、結核療養所と協力して結核病或はこれに類ずる不健康者をしらみつぶしに調べ上げようといふ未曾有の大がかりなもの」(読売新聞1940年5月1日)
1941年に小泉が厚生大臣になると、この「結核撲滅」はさらに加速。翌42年には「結核対策要綱」が発表される。これは「政府はわが国の国辱病として保健対策中の懸案となつている結核撲滅に主力をそそぎ厚生省が中心となって具体的成案を得た」(読売新聞1942年8月22日)というもので、国民を「健康者」「弱者」「病者」に3分類し、「病者」は「結核病床に収容」というルールが定められている。今の感染症法を彷彿とさせる内容だ。
ここまでお話をすれば、筆者が何を言いたいかわかっていただけるのではないか。厚労省という組織のそもそもの存在意義は、「結核撲滅」に代表される感染症対策なのだ。感染症対策といえば厚労省、厚労省といえば感染症対策なのだ。そんなアイデンティティを、外野から「現場が疲弊するから諦めろ」などと多少ガチャガチャ言われたくらいで、否定することができるだろうか。
できるわけがない。厚労省というブランドを背負う者にとって、「感染症対策をするな」というのは最大級の侮辱であって、決して受け入れられるものではないのだ。たとえるのなら、トヨタ自動車に「若者の車離れが進んでいるから、もう車をつくるのはやめたらどうか」と言うのと同じくらい、あり得ないのである。
「いやいや、戦時中には感染症対策に強いこだわりを持っていたかもしれないが、今の厚労官僚たちにそんなプライドはないだろう」と冷笑する方もいるかもしれない。しかし、戦前から続いている老舗企業などを見ていただければわかるが、組織カルチャーというものは世代を超えて脈々と受け継がれていくものなのだ。今の厚労官僚たちが、陸軍にルーツを持つ厚生省カルチャーを引き継いでいても、何も不思議ではないのだ。
実は「強い日本国」をつくるための
臨床試験に参加させられている?
そこに加えて、筆者がこのような主張するのは、厚労省の新型コロナへの向き合い方がある。とにかくやたらと情報を自分たちで独占したがる。そして、国民1人1人の健康よりも、日本という国家全体を強くしよういう思惑が垣間見えるところが、「陸軍っぽい」のである。
実は、戦時中の中国大陸で細菌兵器の人体実験をしていたと言われる陸軍731部隊のリーダー、石井四郎陸軍軍医中将の軍医学校時代の上司は、外でもない小泉親彦だった。さまざまな資料によって、731部隊は満州で結核菌の研究もしていたことがわかっている。一方小泉は、新型コロナの日本の死者が少ないことで注目を集めたBCGの研究を進めていて、陸軍で初めて接種をしたことで有名だ。
この妙な接点から、実は731部隊は結核撲滅という国策を進めるための「汚れ仕事」をしていた人たちであり、その黒幕は小泉ではなかったという人もいる。敗戦後、小泉はすぐに割腹自殺を遂げてしまっているので、もはや真相はわからない。が、1つだけはっきりと言えることがある。
それは、この国の感染症対策は「患者のため」「命を守るため」という視点から始まったものではなく、「日本国を強くするため」という考えからスタートしたものであるということだ。そして、それを令和日本で最も色濃く引き継いでいるのが、実は厚生労働省なのだ。
日本政府は特に目新しい対策をするわけでもなく、かといって検査を増やすわけでもなく、じわじわと国民の間に感染を広めている。果たしてこれがどういう結果に落ちつくのかわからないが、「日本モデル」の感染データは、全て厚労省と国立感染研究所のもとに集められている。
もしかしたら我々は、知らぬ間に「強い日本国」をつくるために厚労省が仕掛けた壮大な「人体実験」に、参加させられているのかもしれない。
(ノンフィクションライター 窪田順生)