独裁政権は何よりもまず言論の自由、報道の自由を弾圧します。
香港の警察は10日、香港国家安全維持法に違反した疑いなどで、民主活動家の周庭氏や中国に批判的な論調で知られる「リンゴ日報」の創業者、黎智英氏ら10人を逮捕しました。
当然国際世論は怒りの声を上げました。
これまでは習指導部に遠慮してあまりその暴圧を非難しないで来た日本政府も、さすがに11日には「重大な懸念を有している」、「香港は一国二制度の下に自由で開かれた体制が維持され、民主的、安定的に発展することが重要だ」(菅官房長官)と表明しました。
人権を抑圧し、報道の自由を奪う習指導部の専制主義への「懸念」を表明するのは当然のことですが、安倍政権が「自由」や「民主的」といった言葉を平然と並べ立てることには、しらじらしさを感じてしまうと、日刊ゲンダイが述べました。
安倍首相の再登板から、はや8回目の夏を迎えましたが、その道のりを振り返れば「懐柔」と形こそ違っても中国政府の「報道弾圧」と大きく変わらないのではないかとする、巻頭特集を掲げました。
以下に紹介します。
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巻頭特集
報道弾圧にも色々ある 安倍政権は目に見えない圧力と懐柔
日刊ゲンダイ 2020年8月12日
人権、報道の自由への弾圧に国際世論が怒りの声を上げている。
香港警察は中国に批判的な香港紙「リンゴ日報」の創始者で、民主派の黎智英氏を逮捕。2014年の大規模民主化デモ「雨傘運動」を率いた学生団体元幹部の周庭氏も逮捕された。いずれも中国の香港統制を強化する香港国家安全維持法(国安法)違反容疑だ。
分かりやすい「みせしめ」だろう。香港警察は黎氏のほか、同氏の長男、次男、リンゴ日報の幹部4人らを根こそぎ逮捕。“国家の分裂をあおった”として周氏を逮捕した際、中国政府の息のかかった香港メディアは、弱冠23歳の「民主の女神」が後ろ手に縛られた状態で護送される様子を生中継で報じた。
6月末に制定されたばかりの国安法を振りかざした民主派弾圧は、習近平指導部の強硬姿勢を中国国内に見せつける狙いがある。香港への締め付け強化に反発する米・英両国など“何するものぞ”と意気軒高。著名人の狙い撃ちは「中央政府には逆らえない」との恐怖心を香港市民に植えつける思惑もあるだろう。
より一層、習指導部の弾圧強化が鮮明になったことで、トランプ米政権の対中制裁が自由主義陣営を巻き込み、エスカレートするのは必至。香港弾圧の可視化によって、米中両国の「覇権争い」は一触即発の危機へと発展しかねない。
習指導部の暴圧に日本政府も11日、「重大な懸念を有している」(菅官房長官)と表明。同時に「香港は一国二制度の下に自由で開かれた体制が維持され、民主的、安定的に発展することが重要だ」(同)と指摘した。
人権を抑圧し、報道の自由を奪う習指導部の専制主義への「懸念」は当然として、安倍政権が「自由」や「民主的」といった言葉を平然と並べ立てることには、しらじらしさを感じてしまう。安倍首相の再登板から、はや8回目の夏。その道のりを振り返れば形こそ違えど、中国政府の「報道弾圧」と大きく変わらないのではないか。
8年もの長期政権はメディア懐柔の賜物
政権返り咲き直後、安倍が真っ先に手を付けたのはメディア対策。具体的にはNHKへの政治介入だ。会長職の決定権を握る経営委員会に次々と“シンパ”を送り込んだ。そのメンバーはブレーンの長谷川三千子・埼玉大名誉教授、安倍の家庭教師だった本田勝彦元JT顧問、作家の百田尚樹氏などロコツな“お友だち”人事。政権のイエスマン、籾井勝人元会長を誕生させると、NHKは政権の広報機関に成り下がっていった。
そればかりではない。昨年秋にはNHK経営委の言論統制まで発覚した。かんぽ生命の不正販売をいち早く追及した「クローズアップ現代+」を巡り、日本郵政グループは2018年10月、経営委宛てに「ガバナンス体制の検証」などを求める文書を送付すると、この“難癖”を経営委は受け入れ、上田良一会長(当時)を厳重注意。上田会長も放送部門トップの放送総局長に事実上の謝罪文を託し、郵政側とのメッセンジャーを担わせる異例の展開となった。
せっかく高齢者をカモにした特殊詐欺まがいの悪事の尻尾を掴んだのに、現場はやりきれない。当時の経営委員長はJR九州の石原進・元相談役。安倍の財界応援団「四季の会」の中心メンバーであるJR東海の葛西敬之名誉会長に連なる“安倍人脈”の一人だ。
郵政側の窓口として暗躍した鈴木康雄上級副社長(当時)は、菅と昵懇の間柄の元総務省幹部である。こんなところにも官邸の威を借りた“狐”が顔を出すあたり、この政権の隠れた報道弾圧の闇深さを感じる。
もはや政権のコントロール下にあるNHKに権力の監視役を望むべくもないが、他のメディアも似たり寄ったり。国民の目の届かない政権の「アメとムチ」にすっかり骨抜きにされた。
癒着の上に成り立つ“台本”営発表
安倍政権下で政府広報予算は2倍以上に膨張。広告収入減に喘ぐ中、従順なメディアにアメがたっぷり用意される一方、ムチは放送法4条の「政治的公平」の原則をテコにした言いがかりだ。
国会で公平性に欠く放送を繰り返すテレビ局への電波停止に言及した高市総務相。14年の総選挙の際、在京テレビ局に「選挙期間における放送の公平中立」を求める“圧力”文書を送り付けた萩生田文科相。両大臣が閣内でふんぞり返っているのも、この政権による報道弾圧の数少ない可視化と言えよう。法大名誉教授の須藤春夫氏(メディア論)はこう言った。
「言論介入が権力の常とはいえ、今のメディアは必要以上に萎縮し過ぎ。背景には国民に説明しづらい政権側との癒着があるのでしょう。例えば『取材相手の懐に飛び込む』と称するインナーサークルから仲間外れにされたくない。その方が所属企業で安定した地位を築けるからです。そのため、誰もが極力“出る杭”になることを控える。故・岸井成格氏ら政権に批判的なコメンテーターが一掃されたのも、メディアが国民の知る権利以上に、企業の論理を優先させた結果とも言えます」
首相動静が伝える範囲でも、安倍は親しいメディアと通じ合っていることを隠そうとしない。メシ友のマスコミ幹部としょっちゅう会食し、お台場カジノに意欲を燃やすフジサンケイグループのドンとゴルフに興じる。その上に安倍のデタラメは成り立っている。
平然と会見を拒否し、たまに開けば台本通りの“台本”営発表でサッサと逃げ去る。メディア選別を禁じる慣例を破り、単独インタビューも解禁。今年5月までの出演回数上位は産経32回、NHK22回と案の定、“応援団”が並ぶ。過去に「安倍政権打倒が社是」と本人がクサした朝日は3回と、月刊Hanada(4回)以下の扱いだ。
気づけば「ナチスの手口」が現実に
記者もお気に入りだけ優遇する。NHKの「総理を最も良く知る」女性記者は首相周辺発の数々のスクープを飛ばし、今や安倍の考えをスラスラ代弁できるイタコ状態。片や菅の“天敵”である東京新聞社会部の女性記者は定例会見で菅に面罵され、政治部記者からも煙たがられる始末だ。
安倍はメディアを排除する敵と厚遇する味方に色分けし、御用メディアとの“共犯関係”で長期政権を築き上げたのだ。
「この8年でメディアのデジタル化が加速。首相は『AbemaTV』『ニコニコ動画』などネットメディアに好意的です。2年前には放送法4条の撤廃まで検討。民放に『公正』を求めるよりもネット媒体への影響力を強める方針にカジを切ろうとした。今後も放送と通信の垣根を巡り、法の規制と緩和に関する情報の重要性は増す。焦るメディアはさらに権力側にすり寄り、それこそ首相周辺の思うツボ。ますます癒着がはびこって、国民の知る権利はないがしろにされかねません」(須藤春夫氏=前出)
こうして報道の自由が目詰まりを起こせば、民主的な社会は一巻の終わりである。
「弾圧もいろいろ。強権発動型のハードな弾圧や民主主義の仮面をかぶったソフトな弾圧もある。安倍政権は後者でしょうが、到達点は前者と同じ。自由と民主主義の破壊です。ただでさえ、公文書の改ざん、隠蔽、破棄と嘘やゴマカシばかり。国会軽視の強行採決に開くべき時に開かない国会逃避と反民主的振る舞いが目立つ政権なのに、メディアはその仮面を剥がそうとしない。気がつけば、ちょうど7年前の8月に麻生財務相が『学べ』と語った『ナチスの手口』が日常化しつつあるのです」(立正大名誉教授・金子勝氏=憲法)
この国が香港に比べればマシと思ったら、大間違い。自由と民主主義なんて実にモロい。悪辣政権の目に見えない狡猾な弾圧に気づいたときには、もう手遅れだ。