植草一秀氏が、「バケツに穴を開けて真水を注ぐ愚策」と題して『Go To』キャンペーンを始めとする安倍政権の経済対策を酷評しました。
植草氏は、
「経済活動を支えるための近道はコロナ感染を抑止することで、コロナ感染が収束すれば、消費マインド、投資マインドは回復する。重要なことは政府が人々の生活不安の解消に万全を期すことで、無理に人為的な需要を創出するのではなく、人々の生存に必要不可欠な所得を保障することが求められる。一時的なカンフル剤投与は貴重な税財源の無駄遣いになってしまう」と述べ、
「安倍内閣のコロナ経済政策の抜本修正が必要不可欠だ」としています。
植草氏の独特な語り口を味わってください。
併せて植草氏のブログ「リーマンショック時上回るGDP大暴落か」を紹介します。
これは政府が4月~6月GDP速報値を発表する前に書かれたものです。
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バケツに穴を開けて真水を注ぐ愚策
植草一秀の「知られざる真実」 2020年8月18日
2020年4-6月期の実質GDP成長率がマイナス27.8%(前期比年率)に落ち込んだ。予測された通りの結果になった。
需要項目別に見ると、民間最終消費が前期比年率マイナス28.9%、財貨・サービスの輸出が前期比年率マイナス56.0%のマイナスになった。戦後最悪の落ち込みである。
最終需要が減退し、生産活動が大幅に落ち込んでいる。
重要なことは人々の生活を支えることである。需要を無理に拡大しようとすることは適切でない。
旅行需要が減少しているのは旅行需要が減少する理由があるから。外食需要が減少するのは外食需要が減少する理由があるから。
財政資金をばらまいて旅行需要や外食需要を人為的に創出しても、旅行需要や外食需要が減少している原因が取り除かれなければ、財政支出のバラマキは一時的なカンフル剤にしかならない。症状が一時的に抑えられるだけで、問題の解決につながらない。
財政資金は無尽蔵に存在しているわけではない。貴重な財政資金を最適に活用しなければ、経済が悪化するなかで政策対応力が失われてしまう。
安倍内閣の経済政策対応は最悪である。最悪の政策対応の象徴がGo Toトラブルキャンペーンだ。
貴重な税財源を無駄遣いしてはならない。旅行需要や外食需要が減退しているのはコロナ感染が拡大しているからなのだ。コロナの感染拡大を抑止することが優先される必要がある。
ところが、安倍内閣が現在採用しているのは、コロナ感染を逆に拡大させる政策である。
「コロナはただの風邪」との判断を前提に置いているとしか考えられないが、この判断を基礎に置いて政策を遂行することは正しくない。
なぜなら、日本の経済主体の多数が、「コロナはただの風邪」と判断していないからだ。
安倍内閣が「コロナはただの風邪」との判断に確信を有しているなら、そのことを丁寧に説明する必要がある。科学的根拠を明示して、日本の市民が納得する説明を示すべきだ。
日本の市民が「コロナはただの風邪」との判断を納得して受け入れるなら、需要拡大策は効果を発揮することになる。しかし、日本の市民がその判断を共有しない限り、Go Toトラブルキャンペーンは有効な効果を発揮し得ない。
東アジアでのコロナ被害は欧米や南米と比較して圧倒的に小さい。しかし、コロナ問題を完全に無視することはできない。特効薬や有効なワクチンの実用化が実現していない以上、医療崩壊に対する警戒が必要である。
また、1000人を超す死者が発生しているのは事実で、高齢者や基礎疾患を有する人々に対するケアを排除することはできない。
経済活動を支えるための近道は、コロナ感染を抑止することだ。
コロナ感染が収束すれば、消費マインド、投資マインドは回復する。
したがって、コロナ感染の感染拡大を抑止することが優先されるべきなのだ。
ある程度の期間、経済活動が停滞することを覚悟する必要がある。
その場合、重要になるのは、政府が人々の生活不安の解消に万全を期すこと。
無理に人為的な需要を創出するのではなく、人々の生存に必要不可欠な所得を保障することが求められる。
企業に対する賃金支払い資金の助成、失業給付の拡充、生活保護制度の抜本改革と利用促進
が最重要である。事業を持続するための運転資金融通も重要になる。
人々の所得環境が政策によって支えられれば、コロナ警戒感の後退とともに最終需要は拡大する。最終需要が自律的に拡大する環境を整備することが重要なのであって、一時的なカンフル剤投与は貴重な税財源の無駄遣いになってしまう。
安倍内閣のコロナ経済政策の抜本修正が必要不可欠だ。
(以下は有料ブログのため非公開)
リーマンショック時上回るGDP大暴落か
植草一秀の「知られざる真実」 2020年8月17日
8月17日午前8時50分に2020年4-6月期GDP速報が発表される。
同四半期の日本の実質GDP成長率が年率換算でマイナス20%を超すマイナス成長に転落した可能性が高いと見られている。
世界的に4-6月期のGDPは大幅に落ち込んだ。コロナの影響で個人消費、設備投資、住宅投資が激減した。最終需要の急減を主因に生産活動が急減した。
米国の4-6月期実質GDP成長率は年率換算でマイナス32.9%を記録した。統計開始以来、最大のマイナス成長を記録した。
日本ではリーマンショック時の2009年1-3月期にマイナス17.8%のマイナス成長を記録しているが、これを上回ると戦後最大の落ち込みになる。
日本経済は極めて深刻な不況に転落している。しかし、日本経済が不況に転落した原因がコロナにあるのではない。日本政府は2018年10月をピークに日本経済が景気後退局面に移行したことを、景気後退転落から1年半経って初めて認めた。
私は昨年前半から、日本経済が2018年10月を境に景気後退局面に移行したことを指摘してきた。
しかし、安倍内閣は2012年11月以来の景気拡大が続き、史上最長の景気拡大が実現しているとの認識を示してきたのだ。まさに台本営である。
2019年10月の消費税増税は日本経済が景気後退局面に移行して1年経過した時点で強行された。消費税増税は完全に誤った政策対応である。
安倍首相はリーマンショックのようなことがない限り、消費税増税を行うと説明してきたが、日本経済はいま、リーマンショック時を上回る深刻な不況に突入している。
しかも、安倍内閣が消費税率を10%に引き上げた時点で、日本経済は不況に転落して1年経過していた。不況のさなかに消費税増税を強行し、日本経済をリーマンショック時以上の深刻な不況に転落させた。政策責任は極めて重大だ。
コロナ問題が顕在化したのは2020年に入ってからだ。
台湾政府は昨年末の時点で武漢市の異変を掌握し、直ちに水際対策を強化した。
中国政府が武漢市を封鎖した1月23日には、武漢市からの入境禁止措置を実施している。
安倍首相は中国政府が武漢市を封鎖した翌日の1月24日に、在中国日本大使館HPで中国国民に対して、2月の春節の休暇を利用して日本を訪問することを要請した。
台湾政府との温度差が鮮明である。
その後も、3月24日に、2020年東京五輪延期が正式に決定されるまで、2020年7月に東京五輪を開催するスタンスを取り続けた。3月1日には東京マラソンまで強行実施した。
東京五輪の延期が正式に決定されると、安倍内閣は突然スタンスを変えて、4月7日に緊急事態宣言を発出した。
日本の市民は3月20日をピークに警戒行動を強め、5月5日にかけて行動抑制を徹底した。
その結果、5月末にかけてコロナ新規感染者数が急減した。
この変化を受けて安倍内閣は5月25日に緊急事態宣言をすべての都道府県で解除。「わずか1ヵ月半でコロナを収束させることに成功した」と大見得を切った。
ところが、このコロナ収束宣言から、わずか1ヵ月半で感染減少は完全に吹き飛んだ。
4月の感染増をはるかに上回る感染拡大を招いてしまった。
行動抑制によって感染拡大を抑止し、慎重に経済活動の拡大を図らねばならないが、安倍内閣は感染拡大を放置して人々の移動拡大を推進している。
安倍内閣が7月22日に始動させたGo Toトラブルキャンペーンは人の移動拡大を推進するもの。人の移動拡大に4週遅れで連動して新規感染者数が増加している。
この影響で、経済活動に再び強い下方圧力がかかり始めている。
四半期成長率の最大マイナスは2020年4-6月期に記録されることになると見られるが、その後の順調な経済活動拡大を見通せない。政府の政策対応も手詰まりである。
安倍内閣の退場を急がねばならない。
(以下は有料ブログのため非公開)