日刊ゲンダイ29日号の巻頭特集に「何もかも行き詰まった安倍首相 辞意と病気の全真相」<上> <中> <下> が載りました。
<上> 編は電子版に全文が掲載されましたが、<中> と <下> 編は有料記事とされ冒頭のごく一部しか載りませんでした。
幸いに記事集約サイト「阿修羅」に <中> 編の文字起こし版が載りましたので、 <上> <中> 編を紹介します。
<下> 編は文字起こし版が出た時点で紹介します。
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何もかも行き詰まった安倍首相 辞意と病気の全真相<上>
日刊ゲンダイ 2020/08/29
潰瘍性大腸炎の悪化は表向きか、飛び交うがん説の真相
歴史は繰り返した。13年前のブン投げ辞任の再来である。持病の潰瘍性大腸炎が悪化した安倍首相が28日、官邸で71日ぶりに開いた会見で辞意表明。歴代最長政権の称号を手にした4日後、唐突にピリオドを打った。その6時間前に菅官房長官は「お変わりない」と言い、側近らも「非常にお元気」などと健康不安説の打ち消しに躍起だったのは一体何だったのか。
自民党の党則を変更して連続3期9年に延長した総裁任期を1年残し、コロナ禍の混乱の最中に途中辞任。「責任は私にある」と繰り返しながら、一度も責任を取ったことがない口先男らしい去り際だが、土気色の顔はむくみとたるみで精彩を欠き、声もかすれかすれ。生気のなさは一目瞭然だった。「先月中ごろから体調に異変が生じ、体力をかなり消耗する状況となりました」と経緯を説明した安倍によると、退陣を決めたのは慶大病院を受診した24日。2週連続の通院で永田町では辞任観測が一気に高まっていた。
「総理の容体は13~14日に悪化し、終戦記念日の全国戦没者追悼式への参列も危ぶまれるほどだったといいます。慶大病院ではがん検査も受けたようで、亡父の安倍晋太郎元外相と同じ膵臓がんを罹患したとの懸念も消えません」(与党関係者)
安倍は先月6日に官邸の執務室で嘔吐。吐血したとも報じられている。歩幅は小さく、歩みはのろくなり、黒い雨訴訟の控訴を受けた12日のぶら下がり会見では小声でボソボソと話すことしかできず、官邸詰めの記者たちは聞き取りに苦労したという。
政治ジャーナリストの角谷浩一氏は言う。
「大叔父の佐藤栄作元首相の連続在職日数超えまでもたせ、その後は体調をだましだまし続けるつもりが、ドクターストップで幕引きとなったのでしょう。安倍首相は新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いてきたとか、秋以降のコロナ対策をまとめたとか、体制を整えたと言っていましたが、第1次政権のブン投げ辞任と何が違うのか」
無策愚策コロナ対応で求心力はみるみる低下。安倍はひと仕事終えたような口ぶりだったが、実態は内閣支持率下落と政策行き詰まりによる事実上の投げ出しなのである。
無能首相を隠し、国民を騙し続けた黒幕たちの大罪
「病気と治療を抱え、体力が万全ではないという苦痛の中から、大切な政治判断を誤ること、結果を出さないことがあってはなりません」
安倍は辞任の理由をこう説明した。もっともらしく聞こえるが、会見では「先月中ごろから体調に異変が生じ、体力をかなり消耗する状態となりました。そして8月上旬には潰瘍性大腸炎の再発が確認されました」とも言っていた。じゃあ、なぜその時に辞めなかったのか。
6月18日から会見も国会も開かず逃げ続け、その結果、安倍は今月24日に在任期間歴代最長の称号を手にした。自分の栄誉のために首相の椅子にしがみつき、国民生活を見殺しにしてきたとすれば、許しがたい話だ。
「長いだけで何の実績もなく、権力を私物化し、日本の社会も経済もメチャクチャにしただけの政権でした。こんな無能首相が7年8カ月も続いてきたことが不思議です。モリカケ桜など数々の疑惑もあり、本当はもっと早くに辞めるべきでしたが、軽いみこしを担いで利用する勢力が長期政権を支えてきた。首相の威光をカサに着て権勢を振るってきた官邸官僚、国民を窮乏化させて肥え太ってきた財閥、そして税金を食い物にしてきた電通などです」(政治評論家・本澤二郎氏)
持病の悪化が辞任理由であれば気の毒だし、治療に専念して欲しいが、それと首相の資質は、また別の話だ。
職務が遂行できない首相を「疲れているから休ませろ」と隠し、このコロナ禍で政治空白を是認してきたのは言語道断だし、病気でなくても、これほど長く続けさせるべきではなかった。それなのに「安倍しかいない」とか言って祭り上げ、党則変更で連続3選を可能にしてまで無能首相を担ぎ続けてきた自民党の罪もかぎりなく大きい。
持病悪化の原因は政策の行き詰まりか追訴の恐怖か
持病が悪化した原因は、政策がことごとく行き詰まり、今後の展望もなくなったことだ。会見で自ら「痛恨の極み」と語った通り、拉致問題も、北方領土返還も、悲願の改憲も、全て暗礁に乗り上げている。
政策の行き詰まりがストレスとなり、潰瘍性大腸炎を悪化させたのは間違いない。さらに、司直の手が伸びないか、恐怖を募らせていた可能性がある。
河井克行前法相と妻の案里参院議員の公職選挙法違反(買収)事件は、安倍自身に捜査が及んでもおかしくない。夫妻が地元の広島政界で配ったカネの原資は、党本部から夫妻側に渡った1・5億円だったと指摘されている。検察が党総裁の安倍の関与に踏み込む可能性はゼロとは言えない。交付罪に該当する可能性があるのだ。
さらに、安倍の胃腸をキリキリさせたのが「桜を見る会」だ。安倍後援会が前日に主催した「夕食会」を巡っては、安倍本人が最高裁の元判事を含めた弁護士・法学者らに刑事告発されている。訴追の恐怖は相当なものだっただろう。
「首相は、1億総活躍や女性活躍など次々と新政策を掲げて、国民の不満をそらし続けてきました。全て看板倒れに終わり、ついに打つ手がなくなったところにコロナ禍が起きた。唯一のレガシーとなり得る東京五輪も不透明となり、今後の展望も消えてしまった。祖父である岸信介元首相を超えることはできないと悟ったのでしょう」(高千穂大教授・五野井郁夫氏=国際政治学)
人間、希望がなくなると何もかも投げ出したくなるものだ。ただし、長きにわたりストレスをため込んだのは国民の方だ。
何もかも行き詰まった安倍首相 辞意と病気の全真相<中>
日刊ゲンダイ 2020/08/29
記事集約サイト「阿修羅」より転載
辞意表明、最大の理由は国会答弁不能のコロナ迷走
このタイミングでの辞意表明は、秋に国会を開いたらマトモに答弁できないと悟ったからではないか。なにしろ、今年1月以降、新型コロナ対応を巡り、安倍政権は迷走に迷走を重ねている。
感染初期は東京五輪の開催や中国の習近平国家主席の来日を気にして、水際対策など初動対応は後手に回った。2月末には専門家に相談もなく突然、全国の小中高に一斉休校を要請。巨額の血税を投じたアベノマスクは大ヒンシュクを買った。緊急事態宣言で経済が冷え込むと、今度は経済一本やり。感染再拡大の真っただ中に「Go Toトラベル」を前倒し実施し、第2波を大きな波にしてしまった。
これでは、国会を開いても、野党からの追及に立ち往生するのは目に見えていた。
法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。
「これまでのむちゃくちゃなコロナ対応について、安倍首相はマトモな答弁ができなかったのでしょう。だから、野党が要求しても国会を開かないし、閉会中審査にも安倍首相は出てこなかった。ニッチモサッチモいかなくなって、臨時国会が開かれる前に逃げたというのが、辞意表明の最大の理由ではないのでしょうか」
28日の会見で、安倍は「(コロナ対応について)実施すべき対応策をとりまとめることができた。(辞任は)このタイミングしかないと判断いたしました」と区切りをつけたかのような言いぶりだったが、何一つ有効なコロナ対策を打てなかったのが実態だ。PCRの検査数もG7で最下位という体たらくである。
こんな辞め方の首相にTV局のチョーチン報道
さすがにコロナ禍の真っただ中の辞任には、SNSでも〈何のレガシーも残さずに辞めた〉〈コレといった功績がないまま終わりました〉といった批判が上がっている。ところが大新聞テレビは、7年8カ月の負のレガシーを検証するどころか、チョーチン報道に終始しているのだから、どうかしている。
辞任をスクープしたNHKはロコツだった。午後2時すぎの第一報直後から、準備万端で、過去7年8カ月の安倍の映像をタレ流し。安倍が“ドヤ顔”で「アベノミクス!」「アベノミクスは買いです!」と語る様子や、株価の上昇ぶりを何度も流し続けた。民放も、安倍が有権者と笑顔でハイタッチする様子や、2013年当時の五輪招致演説を長々と流すありさま。安倍の地元・山口県内の有権者の「長い間よく頑張ってくれた」といった声を延々と放送する局もあった。
会見の場でも大手メディアの記者は、「歴代最長政権のレガシーは」「後継に期待することは」などとヨイショ質問。公文書改ざんや桜を見る会を巡る問題、政権の私物化など、負のレガシーを問いただすメディアはわずかだった。
法大名誉教授の須藤春夫氏(メディア論)はこう言う。
「本来は公文書管理や権力の私物化など、過去の問題を追及すべきですが、辞任の原因が健康問題だから遠慮しているのか、メディアの報道姿勢は甘かったように思います。政権からもたらされる情報を右から左に流すだけでは、報道の意味がありません。次の政権でも同様の姿勢が続けば、国民のメディアへの不信感は広がる。結果的に国民の知る権利が損なわれてしまうでしょう」
長期政権ですっかり飼いならされてしまったようだ。