2020年8月26日水曜日

26- 安倍首相健康問題と政局への影響(植草一秀氏)

 植草一秀氏は、24日付ブログ「安倍首相健康問題と政局への影響」のなかで、鳩山一郎元首相と石橋湛山元首相に関するエピソードを短く紹介しています。

 鳩山は公職追放中の1951年に脳出血で倒れましたが、その後政界に復帰して54年12月に首相になりました。彼は自分の信念である日ソ平和条約の締結に取り組みましたが、米国から横やりが入ったため、56年10月にモスクワで日ソ共同宣言に調印し、それを花道に帰国直後に退陣を表明しました。
 そして同年の12月12日の共同宣言発効を見届けた後23日に退陣(内閣総辞職)しました
 その後に首相に就いた石橋湛山(12月23日就任)は、就任に当たり「自主外交の確立」を掲げ対米隷属の修正を明言しました。しかし1か月後の57年1月25日軽い脳梗塞を起こし2ヶ月の絶対安静が必要と診断されました。
 首相の座についたままで療養に専念する道もあった筈ですが、かつて濱口雄幸首相暴漢に狙撃され国会に出席できなくなったとき、『東洋経済新報』に退陣を勧告する社説を執筆した立場との整合性を貫くために、わずか在任65日で首相を辞しました。
 どちらも潔い実の処し方でした。
 植草氏のブログを紹介します。

 併せて日刊ゲンダイの記事「無残の中で佐藤栄作超え記録更新 ただ長いだけで何もない」を紹介します。
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安倍首相健康問題と政局への影響
植草一秀の「知られざる真実」 2020年8月24日
連続在職日数が歴代最長になった8月24日午前、安倍首相が慶応大病院(信濃町)に入った。8月17日に続いて2週連続の病院訪問は異例。
首相官邸は「先週の受診時に医師から1週間後にまた来るよう言われており、受診は前回の続き」と説明したが、額面通りに受け取る者はいない。
政治家にとって健康問題は機密事項。日帰りの病院訪問であれば隠密に行ことが普通。
首相官邸に医師を招くこともできる。往診では対応できない事情があると考えられる。
隠密での行動は週刊誌等に発覚された場合の影響が大きいため、あえて公表していることも考えられる。いずれにせよ、重大な健康問題が発生している可能性が高い。

病院訪問を公表しているのは、政局転換の伏線を張っている可能性もある。早期に安倍首相が退陣を表明する可能性を否定できない
かつて、石橋湛山首相が健康問題を理由に早期辞任を決断したことがあった。日本政治史の屈折点である。
石橋内閣が長期内閣になっていれば、日本が暗黒史を刻むことはなかった可能性が高い。
拙著『25%の人が政治を私物化する国』(詩想社新書)https://amzn.to/3go7gkv から引用する。
「吉田内閣が造船疑獄事件で退陣に追い込まれた後、公職追放から復帰した鳩山一郎氏が首相の座に就いた鳩山一郎氏は米国と一定の距離を保ち、ソ連との国交回復を実現した。
このことによりシベリア抑留者50万人が日本に帰還できたのである。
1956年、鳩山一郎内閣はソ連との平和条約締結寸前まで交渉を進展させた。ところが、ここで米国が横やりを入れた。「日本が歯舞・色丹二島返還による平和条約締結に踏み切るなら、米国は永遠に沖縄を日本に返還しない」と恫喝したのだ
日ソ平和条約は締結に至らず、北方領土問題の解決も実現しなかった。
この後、日本は北方領土について、四島が日本帰還との主張を始めた。米国の差し金による日本の主張の大変化である。

孫崎享氏の著書『日本の国境問題』(筑紫書房)に詳しいが、米国は日本と中国、日本と韓国、日本とソ連が友好関係を構築しないように、国境問題、領土問題において紛争の種を植え込んだ。これが尖閣、竹島、北方四島の問題である。

鳩山一郎氏首相の後継首相の座を狙っていたのが岸信介氏である。しかし、1956年12月の自民党総裁選で岸信介氏は敗北した。米国に対して堂々とモノを言う石橋湛山氏が首相に就任した。
米国は石橋首相の誕生を警戒した。石橋湛山首相は首相就任に際して自主外交の確立」を掲げ、対米隷属の修正を目標として明確に定めた。」
「この石橋湛山内閣誕生に関して春名幹男氏は、米国国務省北東アジア部長のパーソンズ氏が「ラッキーなら石橋は長続きしない」と述べたことを記す英国外交文書の存在を明らかにした。

そして現実に、石橋内閣は、この言葉通り、わずか65日の短時間で終焉した。石橋首相は1957年1月25日、帰京した直後に自宅の風呂場で軽い脳梗塞を発症した。
報道は「遊説中に引いた風邪をこじらせて肺炎を起こした上に、脳梗塞の兆候もある」と発表したとされる。母校早稲田大学で行われた行事に出席し、体調を悪化させたとも伝えられている。
石橋首相は2ヶ月の絶対安静が必要との医師の診断を受けて、「私の政治的良心に従う」として首相の職を辞した
石橋湛山氏は昭和初期に、暴漢に狙撃され、帝国議会への出席ができなくなった当時の濱口雄幸首相に対して退陣を勧告する社説を『東洋経済新報』に執筆していた。
国会に出ることができない自分が首相を続投すれば、社説での言説との矛盾が生じるとして首相辞任を決意したと伝えられている。」

重大な健康問題が存在するなら、国政に遅滞が生じることは免れない。
安倍首相が辞任を表明するなら、日本の政局は重大局面を迎える。
衆院の任期満了が1年後に迫る。どのようなかたちで次の衆院総選挙が実施されることになるのか。
安倍政治NOの考えを持つ日本の市民は、この機会に日本政治の刷新を図らねばならない。
そのための具体的な構想を構築し、直ちに実行する必要がある。

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(以下は有料ブログのため非公開)

<号砲が鳴った ポスト安倍政局の行方>
無残の中で佐藤栄作超え記録更新 ただ長いだけで何もない
 日刊ゲンダイ 2020 年 8 月 24 日
 8月24日、安倍首相の連続在職日数が2799日となり、大叔父・佐藤栄作の記録を塗り替え、歴代最長となった。この先もそう簡単に超えられることのない金字塔を打ち立てたわけだが、政権内に高揚感は乏しい。
 27日に予定されていた自民党幹部による「お祝い会」は既に延期が決まっている。さらに、24日午前に安倍は慶応大病院を再び訪れた。あれだけの騒動になったのに、1週間後に「再び」というのは驚きだ。
 17日に慶応大病院で「検診」して以来、安倍の健康不安は広がるばかりで、むしろ、この8・24を過ぎれば「いつ退陣してもおかしくない」という臆測で、ポスト安倍政局も激化している。歴代最悪のペテン政権は、レガシー(政治的遺産)ゼロのまま終わりを迎えることになるのだろう。
(中 略)
ただ長いだけで何もない
「体調悪化で退陣」を前提にした自民党内の権力闘争の一方、野党からは「首相は予算委員会に出席して、自らの健康状態を説明すべき」という声が上がる。これに対し、「病気をあげつらうようで、おかしい」という批判と安倍への同情論があるが、同情されるべきは、そんな首相をいただく国民だろう。
 安倍の盟友の甘利税調会長らは、しきりに「休養」を勧める。しかし、この未曽有の新型コロナ禍において、トップが“疲れて”マトモな判断が下せないのは、国民にとって悲劇でしかない。そして、そういう首相が歴代最長を樹立なのである。歴史に残る大宰相のはずが、第1次政権に続き、2度も政権を放り投げる。そんなことになれば、もはや喜劇だ。コロナ禍で失業や倒産の憂き目に遭っている国民は、やり場のない怒りをどこにぶつければいいのか。

 政治評論家の森田実氏がこう言う。
「佐藤栄作は沖縄返還を成し遂げました。吉田茂は、私は反対運動をしていたので評価しませんが、サンフランシスコ講和条約や日米安保条約を締結しました。首相を長くやれば、何か歴史に残る偉業があるものです。ところが安倍首相は、ただただ長いだけで何もない。それどころか、やったのは、国を悪い方向に導きかねない、集団的自衛権の行使を認めた安保法制ぐらいです。国民のために何かを残すのではなく、うわべだけの口先パフォーマンス政権という実態が、コロナ禍であらわになったのが現状。病気だからゆっくり休んで、というのは違う。この危機において指揮が執れないなら、国民にわびて退陣すべき。それが安倍首相の選ぶべき道です」

政権運営に行き詰まり、レガシーゼロに焦り
 2度目の政権ブン投げ観測が出るのは、持病の「潰瘍性大腸炎」という健康問題だけが原因ではなさそうだ。
 月刊誌「月刊日本」9月号で、毎日新聞編集委員兼論説委員の伊藤智永氏が、第1次政権時のことを、次のように話しているのが興味深い。
<第一次安倍政権が退陣した日のことをよく覚えていますが、安倍総理は2007年9月10日の臨時国会召集日に「職責を果たし全力を尽くす」と所信表明演説を行い、9月12日午後1時に代表質問を行う予定でした。しかし当日の正午過ぎにテロ対策特別措置法の延長が難しくなった途端、その場で辞任の意向を伝えて午後2時から辞任会見を開きました。政権を放り出した本質的な理由は体調が悪かったからではなく、政権運営に行き詰まって心が折れたからだということです>

 今回も同じだ。おそらく、体だけでなく心もズタズタなのだろう。
 コロナ対策は後手後手で、アベノマスクの失策もあり、支持率低下を招いた。数々の疑惑も周辺に迫る。
「桜を見る会」を巡る疑惑は、重要人物2人が別件捜査のターゲットになるなど再燃。森友問題では自死した近畿財務局職員の遺族が国と佐川元理財局長を提訴し、裁判が始まっている。参院選での公選法違反(買収)の罪に問われた河井克行・案里夫妻の事件はあす初公判だ。党本部からの1億5000万円の資金にメスが入る可能性もある。

一寸先は闇
 頼みの綱だった経済と外交も八方塞がり。2020年4~6月期の実質GDPは前期比7・8%減、年率換算27・8%減という戦後最悪のマイナス成長で、日本経済は瀕死、アベノミクスの崩壊はクッキリだ。9月以降は倒産や廃業の激増も予想されている。キャッチフレーズが躍った「地方創生」「1億総活躍」「全世代型社会保障」なども、看板倒れで棚ざらし状態である。
「戦後外交の総決算」と意気込んだ拉致問題解決も北方領土返還も、北朝鮮の金正恩委員長やロシアのプーチン大統領に手玉に取られただけで、1ミリも進んでいない。
 悲願の憲法改正に執念を燃やすものの、来年の総裁任期満了まで続けたとしても絶望的だ。歴代最長でもレガシーなし。その結果、来夏に延期されたオリ・パラ開催にすがる情けない宰相が、いまの安倍なのである。

 政治評論家の野上忠興氏が言う。
「安倍首相は『このままただ長くやっただけの首相で終わりたくない』という気持ちが強いようです。アベノミクスはボロボロで、改憲も見通しが立たない。内政、経済、外交とあらゆることがうまくいかず、この8年弱は何だったんだと落胆し、精神的にも参っている。それがストレスとなり、心身を痛める最大の要因になっています」
 加えて、一寸先は闇の政界で、寝首をかかれる恐怖。菅は先週金曜(21日)、テレビ朝日系「報道ステーション」に出演したが、ここにきてやたらとメディア露出を高めている。それが何を意味するのか。
「溺れる者を叩くのが政界。終わりが見えた権力者に対しては、非情なものです。生き残り競争ですから、“お友だち”だって、次を考えて動く。誰もが勝ち馬に乗ろうとする」(野上忠興氏=前出)
 無残の中での記録更新、である。だが、それが実力だったということ。前出の森田実氏は、「長期政権になったのは、民主党が自滅し、その後も野党が迷走したのが最大の要因で、大政翼賛会に堕落したマスコミが政権に不都合なことを報じなかったから」と分析する。国会を開かず、記者会見で説明もできない。体調悪化だろうが、何だろうが、国民のために働けない政権は、一日も早く退場するべきなのだ。