第2四半期(4~6月)の日本のGDP成長率は年率換算でー27・8%となり、戦後最大の落ち込みを記録しました。日本のマスコミは、先進国の中では減少幅が少ないという点を強調しましたが、中国、台湾、韓国についてはあまり触れようとしません。
中国の第2四半期の成長率は実に+55%、台湾はー8・8%、韓国はー12・7%(いずれも年率)でした。
「世に倦む日々」氏は第2四半期のGDP成長率は各国のコロナ対策の成績を示すとして、その評価点は中国は5、台湾と韓国は4、日本は2、米国とEUと英国は1としました。
そして日本は東アジアに位置し、詳細は未知ながら「ファクターX」という優位性を持ちながら韓国の2倍のGDPマイナス幅というのは、まさにコロナ対策の欠如と貧困と失敗を証明するものだと断じました。
中国がトランプから激しい経済制裁を受けながら見事なV字回復を実現し、世界中でただ一国だけ景気回復に成功した原動力は『内需』*の喚起であり、個人消費が景気回復を主導しているとし、その背景には、機動的で科学的な対策方法を確立してコロナを封じ込め、国内からコロナの脅威を一掃してしまったことがある述べています。
その点は台湾や韓国も同様で、いまだにコロナの再拡大に対して何の手も打たないでいる日本とは雲泥の差です。「クラスター対策班」の成果などという大いなる錯覚に陥っている厚労省や分科会に舵取りを任せている国の悲劇です。
「世に倦む日々」氏は、中国が劇的な内需拡大に成功した理由は、昨年の例で言うと、国民の海外旅行費・年間約28兆円の多くが海外旅行の自粛により国内消費に向かったからと見ています。その点は、すぐ隣に位置し昨年まではインバウンドの恩恵を受けていた日本が、旅行自粛の被害をもろに受けたのとは好対照でした。
そうした大局的状況の認識もないままに、昨年韓国に対して半導体製造用資材の輸出制限に踏み切ったのが安倍政権でした。以前の状態に復するには、安部政権が退陣してからもさらに年月を要することでしょう。
「世に倦む日々」の記事を紹介します。
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中国のGDPを報道しないマスコミ - 観光収支の彼我とインバウンド経済の破産
世に倦む日々 2020-08-24
先週の大きなニュースとして、4-6月の日本のGDP成長率が年率換算で27.8%減となり、戦後最大の落ち込みを記録したという問題があった。この件にはずっと注目し、ブログやツイッターで速報値を追いかけて各国との比較を試みてきたが、やはり予想どおりというか、日本のマスコミは中国の数字 - 何と55%増! - を無視して碌に報じなかった。日本の報道は、欧米諸国と比較し、先進国の中では減少幅が少ないという点ばかり強調して伝えていた。韓国や台湾の数字を示すこともしなかった。韓国は年率で12.7%減であり、台湾は8.8%減である。日本と比較して、韓国のマイナス幅は2分の1であり、台湾のマイナス幅は3分の1に止まっている。この結果は韓国と台湾のコロナ対策の秀逸さを示すもので、政府が感染防止の万全の対策を打ち、それがよく反映された結果である。前に述べたように、2Q(=第2四半期)のGDP速報値は各国のコロナ対策の成績表を意味する。中国は5、台湾と韓国は4、日本は2、米国とEUと英国は1。
日本のテレビ報道で、中国と韓国と台湾の数字をグラフで並べ、コロナ対策の成否と関連させて意味を分析した番組はなく、論者も一人もいなかった。われわれが考えないといけないのは、仮にファクターXが介在していたらどうなのかという問題である。私自身は、感染拡大のメカニズムには何らか人種的(形質的・生理的・免疫的)な要因が複雑に絡まっていて、それが世界諸地域の感染状況の差異となって現れていると推測している。そうでないと、欧米や南米と東アジアとの相違を説明できず、よく理解できない。日本を含めた東アジアの諸民族には幸運な偶然がもたらされていたと直観する。そうしたファクターXの存在と関与を仮定した場合、日本が韓国の2倍のGDPマイナス幅というのは、まさにコロナ対策の欠如と貧困と失敗を証明するものだし、欧米諸国と比較してコロナ対策で相対的に成功しているとは言えない。逆に、世界中で最悪の対策をやっていたのが日本で、無策で無能だったのが日本だという総括になるだろう。
それにしても、中国の2QのGDPの年率換算55%増という数字は驚異的だ。刮目させられる。前期比で11.5%増、前年同期比で3.2%増。生産を上昇させ、消費を回復させ、ほぼあらゆる指標で力強い反転を遂げ、見事なV字回復を実現している。世界中で、ただ一国だけ景気回復に成功している。その景気回復を牽引している中身は内需に他ならない。この点に着目する必要がある。日経の記事にあるように、輸出の回復は順調ではない。無理もないことで、コロナ禍でEUと米国の輸入が減っており、加えて米国から厳しい経済制裁を受けている事情がある。V字回復のエンジンは内需であり、個人消費が景気回復を主導している。これも当然といえば当然で、1-3月期は国内諸都市が封鎖状態にあり、交通が止められ、人の往来と外出が厳しく制限されていた。コロナ封じ込めに成功し、機動的で科学的な対策方法を確立し、中国は2Qには国内からコロナの脅威を一掃してしまった。国内の経済活動はコロナ前の原状に復すことができる。
が、あまりにも中国だけが劇的な内需拡大のV字回復を遂げているので、その中身を考察して秘密の一端を探りたいと思う。他の先進諸国と何が違うのか。実は鍵となる特別な理由がある。どうやらそれは観光だ。情報では、中国の昨年上半期のアウトバウンド(=海外向け)旅行者による支出額は1275億ドル(約14兆円)に上るという。年間で2550億ドル(約28兆円)。凄まじい数の中国人が海外旅行に出ていて、旅行先で大量のマネーを落としている。中国のGDPが13兆6100億ドル(世界銀行統計)なので、この数字は2%分に相当する。巨額だ。海外旅行支出はGDP計算では輸入に計上され、輸出のマイナス分にカウントされる。すなわち、GDPの数値全体を引き下げる要素となる。その国の国民経済にとってスペンディング(=支出)であり、数字的にはロスの評価の経済活動となる。工業競争力で優位に立った貿易黒字国はこの手段で穴埋めを図り、貿易赤字国に対して帳尻を合わせようとする。80年代に中曽根康弘が推進した経済政策だ。
コロナ禍が世界を覆う中、国際航空便は止まり、国境を越えて移動往来する観光客の波は止まった。各国とも海外観光客が消費して殷賑(=にぎわう)する市場経済はゼロになった。世界の観光業の需要を作り出していた主力は、まさに7131万人(18年実績値)の中国人であり、2550億ドルの観光消費マネーに他ならなかった。その2550億ドルの四半期分(4分の1)が、今回、国民経済計算上セーブされたことになり、中国国内での支出に回り、すなわちGDPの個人消費に回ったため、2Qの中国のGDPは驚異的な押し上げとなったのだろう。お金が海外に落ちずに国内に落ちた。コロナ禍の偶然の要因によって、GDPのマイナスが減ってプラスに転化した。試算上、少なくとも637億ドルの輸入が減り(輸出が増え)、その支出分の多くが国内の個人消費に使われている。全部が国内の消費支出に回ったわけではなく、貯蓄に回った分も多いに違いないが、それでもボーナス的な需要が国内市場に発生した事実は疑えない。この経済因子を看取できるはずだ。
同じ傾向は、韓国と台湾についても言えるかもしれない。韓国も台湾も国民の海外旅行熱が旺盛で活発な国である。海外旅行客の出国大国であって、インバウンド・アウトバウンドの収支バランスを確認すれば、支出(赤字)の方が多く、GDP上は観光収支でマイナス分が多くなっている国(地域)だろう。韓国も台湾も、今回は海外旅行に出る者が足止めとなり、GDPの支出分がマイナス(輸出のプラス)の効果となった。一方、現在の日本経済は、インバウンド・アウトバウンドの収支がプラスに構造化された国であり、すなわち観光立国に政策設計され、インバウンド・オリエンテッド(=方向付け)に傾斜した国である。パンデミックで世界の観光全体がフリーズされると、その経済的影響が収支マイナスに出る国である。GDPに占めるインバウンドの比重が高く、ダメージとインパクトが大きく出てしまう国だ。その典型的な例がEU諸国であり、観光で経済を成り立たせている国々であり、だから2Qの数字の落ち込みが極大化する悪夢となったのだろう。そのように観察することができそうだ。木村太郎が指摘していたように、観光のGDPに占める割合が先進国は本当に大きい。
今回は詳しく論じられないが、私の認識と結論は、日本経済をインバウンド型でモデルで形作る方向性には反対であり、安倍政権が推し進めてきたインバウンド至上主義の経済成長路線は破棄するべきだと考える。その旨を主張したい。今回のコロナ禍がワクチンで一度は解決されたとしても、第二第三のパンデミックは必ず出現し襲来するに違いない。インバウンド経済はパンデミックに無力であり、跡形もなく崩壊させられる。パンデミックが頻発する人類史のリスクの前に、インバウンド・モデルの経済立国は成立し得ない。そもそも、アベノミクスが遂行してきたインバウンド業の興隆と拡大は、普通の日本人の庶民が憩いのために使っていた公共の場を、押し寄せる海外観光客のために乱暴に無造作に開放し、彼らの享遊と消費の場にし、資本に儲けさせるために社会空間を改造することだった。銀座も、上野公園も、嘗ての面影を失って滅茶苦茶になった。春の千鳥が淵も、秋の奥日光も。日本人の中産階級のための生活空間だった場所が、外国人観光客と資本のために乱雑に占領され私的所有された。
われわれは、共有地を簒奪されて、資本と外国人に奉仕させられている。自分の馴染みの商業地や行楽地から疎外されている。日本の市民は小さくなって銀座の歩道の隅っこを歩き、山手線車内での外国人観光客の粗暴な行儀作法と騒音に耐えることを強いられ、浅草で人力車を引く苦力となっている。飛田新地でコンフォート(=慰安)をやっている。不愉快で納得できない。容認できない。こんな惨めで落ちぶれた経済と生き方はやめにしたい。