2020年8月13日木曜日

致死率が低ければ感染拡大放置でいいのか 「命より金」の暴論

 新型コロナでの「軽症」はすぐ命に別条はないという意味で、39度の熱が数日間続いても軽症」とされます。酸素吸入をしないと危ない状態になって初めて「中等症」になり、「人工呼吸器ECMOによる管理、ICUなどにおける管理が必要な患者」「重症患者」とされます。従って高齢者や持病のある人は「軽症」であっても決して油断は出来ません。軽症であっても退院してから重い後遺症に悩まされ、勤務は愚かずっと呼吸不全に悩まされる人もいます。
 安倍首相はよく「死者が少なく重症者数も少ないから重大な段階ではない」と口にしますが、それは明らかな暴論で、感染拡大を放置できる言い訳にはなりません。
 日本世論調査会による調査、新型コロナ対応で健康と経済のどちらを優先すべきかという設問に対し、84%の人が健康優先で、経済優先14であったのは当然です。

 政府は経済を回したいとして「Go Toトラベル」を強行しましたが、その結果は全国各地に新型コロナウイルスを拡大させました。典型的な被害者は沖縄県でそれまで2ヶ月半も新規感染者数がゼロであったものが7月23日から急激に拡大し、いまや人口10万人当たりの感染者数は59・2人と国内断トツの数に達しました(10日現在。25人以上が最悪の「ステージ4」。因みに2位以下は、東京都27・3人、愛知県24・5人、福岡県24・1人)。

 政府が感染を抑え込まないままで経済活動を優先させようとした結果がこの有様です。
 感染を抑え込まないまま経済を回しても効果を上げない良い例は集団免疫路線を目指したスェーデンで、周辺国の数倍という多くの死者を出しましたが経済活動のレベルは、周辺国と何も変わりません。
 要するに国民のコロナ感染に対する恐怖が大きければ、政府がいくら督励したところで経済活動は高まらないということです。
 その逆に、感染者ゼロが100日間続いているニュージーランドなど、ある程度コロナ封じ込めに成功した国ほど経済的なパフォーマンスは高くなっています

 日刊ゲンダイが「致死率で判断か 大手を振って闊歩する『命より金』の暴論」という記事を出しました。
 以下に紹介します。
 併せて日刊ゲンダイの記事「東京都コロナ療養者が急増 最も深刻な『ステージ4』に突入」を紹介します。
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巻頭特集
致死率で判断か 大手を振って闊歩する「命より金」の暴論
日刊ゲンダイ 2020/08/11
(記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 国内の新型コロナウイルス感染者が10日、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客乗員を含めて累計5万人を超えた。4万人を超えたのが8月3日だから、わずか1週間で1万人も増えたことになる。
 このところ、1日あたりの感染者数が1000人を超える日が続き、感染拡大は大都市圏だけでなく、全国に広がっている。それでも政府は「重症者数が少ない」ことを理由に、4月の緊急事態宣言時とは状況が違うと言い、感染者の増加ペース加速を傍観しているだけだ。
 そういう政府の対応を擁護するためか、あるいは別の意図があってのことか知らないが、最近は「致死率が低いから問題ない」「PCR検査拡充は無意味」という乱暴な言説も散見される。
 元大阪府知事で弁護士の橋下徹氏も、10日に出演したTBSの番組で「感染者数は少ないほうがいいけど、医療崩壊が生じない限りは、感染者数はある程度あるもんだと国民が認識しないと、恐怖を覚えて社会経済活動が止まる」、そのうえで「感染者数に一喜一憂するのは違う」などと主張していた
「これだけ感染者が増えているのに、政府は旅行を推奨する『Go Toトラベル』キャンペーンを前倒しで強行した。『感染防止に気をつけろ』という精神論で対策を国民の自己責任に押し付けて、経済を回せというのです。国民の命より経済が大事だと考えているのでしょう。しかし、『Go To』キャンペーンに業界が期待したところで、感染の不安におびえる国民は動けない。若い人は軽症で済んでも、彼らが活発に動けば、高齢者など重症化しやすい人に感染させ、それで重症者も増えていけば、いつ医療崩壊が起きてもおかしくない。そういう不安がある限り、経済活動が活発になるわけがないことは、誰が考えても分かります。コロナ対応で無為無策の政府が目先のカネを優先した結果、感染症の抑え込みと経済活動のどちらもうまくいかないということになりかねません」(経済評論家・斎藤満氏)

コロナ対策でも弱者切り捨て
 政権寄りといわれる読売新聞が7~9日に実施した世論調査でも、新型コロナウイルスを巡る政府の対応を「評価しない」という回答は66%に上った。前回7月調査の48%から大幅に上昇している。「評価する」は前回の45%から27%にまで落ち込んだ。安倍首相が新型コロナへの対応で指導力を発揮しているかについては、「思わない」という人が78%だった。
「コロナ封じ込めより、観光業界を救うための『Go To』キャンペーンを優先する政府の姿勢に多くの国民が疑問を抱くのは当然です。観光業界が窮地に陥っているのは確かですが、税金をバラまいて解決するものではない。需要回復の最善策はコロナ収束に注力することのはずです。実際に、感染者ゼロが100日間続いているニュージーランドなど、政治がリーダーシップを発揮して、ある程度コロナ封じ込めに成功した国ほど経済的なパフォーマンスも高くなっている。安倍政権はこれまでも弱者を切り捨て、格差を拡大させてきましたが、この感染拡大を目の当たりにしても“健康よりカネ”で、大企業を救うことに躍起な姿勢を見れば、誰のための政治をしているかがよく分かる。企業優先を正当化するために、感染者数の増加に一喜一憂しないなどと言い出して、これまでと違う基準を持ち出してくるご都合主義です。コロナ感染の恐怖におびえる国民のことなど、まったく考えていないのです」(斎藤満氏=前出)

個々の命の重みを政治が数値で判断する危険な論法
 政府の有識者会議「新型コロナウイルス感染症対策分科会」は7日、感染状況を4段階で評価するための新たな指標を取りまとめたが、その内容は病床の逼迫度合い、人口10万人あたりの療養者数など6項目で、1日あたりの新規感染者数は指標から消えた。
 加藤厚労相も7日の会見で、軽症者や無症状者が「1人暮らしで自立生活ができる」「同居者に喫煙者がいない」などの条件に当てはまる場合、自宅療養が可能と発表したが、こんなの政治の責任放棄に等しい。独身者が自宅で容体が急変したら、誰がどう対応するのか。それも自己責任にされるのか。病床不足は政治の怠慢でしかない。4月の緊急事態宣言には、病床や療養施設の不足を解消するための時間稼ぎという意味もあったはずだ。
「病床が逼迫しなければいい」と、感染者急増には目をつぶって、療養者や重症者の数を重視する方針にしれっと転換したのは、失政を棚に上げた居直りでしかない。だいたい、医療の逼迫を防げれば問題ないというのは、誰の視点なのか。患者か、医者か、ほかの疾患を抱える金持ちか。

「分科会は政府の方針にお墨付きを与える御用機関でしかありません。政府は都合のいい時だけ分科会が出した数字を持ち出すし、意に沿わない提言は無視して“総合的判断”などと言う。コロナ感染拡大を無視して経済を回すというのも、安倍首相が来年の五輪開催に固執しているから、特定の企業に税金をジャブジャブ流して、五輪スポンサーの再契約をしてもらうためでしょう。それで国民の命と健康は犠牲にされる。御用学者が政権と一体になって、新自由主義的な命の軽視を推進しているのです」(政治評論家・本澤二郎氏)
 日本世論調査会による全国郵送調査によると、新型コロナウイルス対応で健康と経済のどちらを優先すべきかという設問に対し、「どちらかといえば」を含めると84%の人が健康を優先すべきだと考えていることが8日に明らかになった。経済優先は、14%に過ぎない。政府の方針によって、自分たちの健康が脅かされていることに多くの人が潜在的な危機感を抱いていることの表れだろう。

75年前の過ちを繰り返すのか
 新型コロナは、軽症ならいいというものではない。「重症患者」の定義は「ECMOや人工呼吸器による管理、ICUなどにおける管理が必要な患者」である。かなり深刻で、ほぼ危篤に近い状態といっていい。軽症といっても、すぐさま命に別条はないという意味で、39度の熱が数日間続いても軽症扱いだ。酸素吸入をしないと危ない状態になって初めて「中等症」と判断される
軽症であっても、中等症、重症に急変するケースは少なくないし、後遺症が長く残るという報告もある。現時点で致死率が低いからといって、感染拡大を放置していいはずがないのです。この政権は、コロナ感染者や死者の何万人、何千人という国民一人一人に生活があり、家族がいて、懸命に生きているという命の重みを分かっていない。自分たち権力者はコロナに感染しても優先的に検査も治療も受けられると安心して、庶民は虫けら扱いなのでしょうか。本来、政治は社会の最も弱いところに光を当て、弱者を救うためにあるのに、カネと利権しか頭にない政治屋ばかりです。一般国民のことは、税金と選挙の票を献上するマシンくらいにしか思ってなくて、弱者のための政治という視点が完全に欠落している。コロナ対策で経産省が旗を振っていることでも、“カネが全て”というこの政権の体質が分かります。安倍首相が敬愛する祖父の岸信介が牛耳っていた戦前の商工省が、利権のために庶民の命を軽視して戦争を主導した構図とそっくりです」(本澤二郎氏=前出)

 国民の命を数字の塊でしか見ていない政治は危うい。コロナ感染拡大防止に無為無策という以前の問題だ。今後、権力者も次々と罹患して重症が蔓延すれば、初めて慌てふためくのかもしれないが、それまでは、どれだけ国民の命が失われても、連中には他人事でしかなく、倒錯したヒロイズムをかき立てるだけなのだ。政治を勘違いしている政権がいま、75年前と同じ過ちを繰り返そうとしているように見える。


東京都コロナ療養者が急増 最も深刻な「ステージ4」に突入
 日刊ゲンダイ 2020/08/11
 沖縄に続き、東京も最も深刻な感染状況を示す「ステージ4」に突入――。政府の有識者分科会は、新型コロナウイルスの療養者数について、ステージ4に移行する判断基準を「10万人あたり25人」としている。県独自の緊急事態宣言を出している沖縄は59人と突出し、愛知や福岡も基準目前だ(別表)。

 東京は8日に25人を突破し、9日には27.3人に上昇している。なにしろ、この1カ月間で入院は453人から1601人に、宿泊療養は162人から439人に増えている。「感染者は40代以上が割合も人数も増えています。高齢者は無症状でも入院してもらうので、入院患者の増加を招いている」(都庁関係者)という。
 さらに、療養者数3756人のうち、家庭内感染を引き起こしかねない自宅療養が439人、療養場所が中ぶらりんの入院・療養等調整中が1110人もいるのだ。都は病床を2400床から4000床に、宿泊施設を2150室から3000室に増やす予定だが、感染拡大の勢いが止まらない中、施設治療が十分にできるのかは疑問だ。

行き当たりばったりの厚労省
 国の対応もなし崩しだ。厚労省は軽症者や無症状者について宿泊療養を原則にしている。4月に埼玉で自宅療養していた50代男性が急死したことを受けて、加藤厚労相は「家庭内の感染防止の観点に加え、急な容体変化の可能性もあることから、宿泊療養を基本とする」と表明していた。
 ところが、ここにきて軌道修正。自治体が宿泊施設を確保できない場合、1人暮らしで自立生活ができる人や、同居者に喫煙者がいない人の自宅療養を容認することにしたのだ。

あふれる患者は自宅送り
 医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏が言う。
「病院や宿泊施設に限りがあり、これだけ感染者が増え続けているのですから、もう自宅療養しかないということなのでしょう。せめて、オンライン診療のインフラ整備をしっかりと進めておくべきでした。自宅療養者に対し、医療従事者がケアできますからね。ところが、この間、厚労省はオンライン診療に関して邪魔をするばかりで、何の手当てもしてきませんでした。やるべきことをせずに、行き当たりばったりの対応にしか見えません」
 適切な治療ができなければ、被害は拡大する一方だ。


都府県名
療養者数
人口10万人当たり

沖  
874人
59・2人

東  
3756人
27・3人

  知
1855人
24・5人

  岡
1236人
24・1人

大  
1657人
18・8人
                   (10日20時現在)