2020年8月26日水曜日

「無症状者に検査は不要」の厚労省方針は大いに疑問(上 昌広氏)

 日本の厚労省・分科会は、コロナに感染していても無症状であればPCR検査の対象としない(感染者と認定しない)ことを明言しています。しかし無症状者も有症状者と同様に他人に感染させるので、その人たちを隔離(乃至自己隔離)しないことには感染の拡大は防止できません。
 これは極めて当たり前の話で、なぜ厚労省・分科会無症者をPCR検査の対象にしないのかまったく理解できません。少し前まで厚労省・分科会は、医療崩壊を理由にして公然とPCR検査を抑制していましたが、それと同じ程不合理で理解できない話です。

 NPO医療ガバナンス研究所理事長の上 昌広・医学博士(東大)が、公表された論文から、無症状感染者でも普通に感染させることを分かりやすく証明し、無症状の人にはPCR検査を実施しないという厚生労働省の方針は医学的には不適切であることを明らかにしました。

 さらに厚労省医師や看護師、介護士、さらに警察官や自衛隊員など社会的に不可欠な労働者である「エッセンシャルワーカー」やホームレスなどの社会的弱者も対象から除外(無条件には検査を受けさせない)していることについて、それでは院内感染が防止できず、「このような人々に検査を制限している先進国を私は知らない」と述べています

 コロナが「100年に一度の国難(安倍首相)」であれば、それに対処する部署である厚労省・分科会は最も合理的な対処法を採るべきであるにもかかわらず、いまだにそうせずに頑迷を極めているのは異常なことです。
 感染研は、自分たちがコロナに関するデータを独占するために「保健所」を検査の可否を決める関所に使っているそうですが、感染研が発表しているコロナに関する論文は僅か数点に過ぎないということです(日本全体では8百件余・全世界では4万件余)

 こうした世界の常識に反する対応をズルズルと続けていれば、日本はいつまでたっても中国、韓国、台湾等が実現した満足な経済活動に移行させることは出来ません。

 上 昌広氏の記事を紹介します。

 追記)上氏はこれまでも多くの記事を発表していますので、厚労省等は謙虚に受け入れるべきです。
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日本がコロナ第3波を避けられない決定的弱点 「無症状者に検査は不要」の方針は大いに疑問だ
  東洋経済オンライン 2020/08/25
 8月20日、日本感染症学会で尾身茂・新型コロナウイルス対策分化会会長が「全国的にはだいたいピークに達したとみられる」と発言した。本稿を執筆している8月22日に全国で診断された感染者数は984人、1日当たりのピークである8月7日に感染が確認された1601人の61%だ。とりあえずのピークは越えたと考えていいだろう。
 ただ、私はこれでは安心できないと考えている。今回を「第2波」とした場合、現在の感染対策を続ける限り、日本は「第3波」の到来を避けられない。なぜなら、合理的な対応がとれていないからだ。それは最新のコロナ研究の成果に基づいて、対応を臨機応変に変えることだ
 コロナ研究は日進月歩だ。アメリカの医学図書館データベース(PubMed)で“COVID-19”で検索すると、8月23日現在、4万2748報の論文がヒットする。これに“Japan”という単語を組み合わせて検索してみると839報となる。全体の20%にすぎない。日本のコロナ研究が停滞していることがわかる。
 では、最近、筆者が関心をもった研究をいくつかご紹介しよう。

抗体検査による感染者数の推定は過少評価となる
 まずは軽症者のコロナ抗体の保有率についての研究だ。コロナの特徴は感染しても、無症状あるいは軽症の人が多いことだ。彼らが、どの程度存在し、周囲にどの程度感染させるかは明らかではない。最近になって実態がわかってきた。
 8月19日にフランスのパスツール研究所などのチームが『サイエンス・トランスレーショナル・メディスン』誌に発表した209人の軽症患者を対象とした研究によると、発症から15日後までにコロナへの抗体が検出された人は32%にすぎなかった。
 これは8月18日に中国の復旦大学の研究者が『アメリカ医師会誌(JAMA)内科版』に報告した研究とも一致する。彼らは軽症のコロナ感染から回復した175人を対象に抗体価(体の中に侵入してきた、あるウイルス<抗原>に対して対抗する物質<抗体>の力価<量や強さ>のこと)を評価したが、抗体価のレベルが患者ごとに個人差が大きく、最も閾値を下げても(抗体陽性者を最も多く見積もっても)、10人は陰性だった。さらに、抗体価は発症後10~15日でピークに達し、その後、ゆっくりと低下していった。
 フランスと中国の研究成果は、抗体検査をベースとした軽症感染者数の推定は過小評価になることを意味する。
 とくに、感染ピークから時間が経って検査をした場合、その数字は信頼できないかもしれない。例えば、神戸市立医療センター中央市民病院は、3月31日~4月7日にかけて1000人の外来患者を検査し、抗体保有率は3.0%だったが、5月26日~6月7日にかけて外来患者1000人を検査したところ、抗体保有率は0.17%に低下していた。
 この乖離について、神戸市立医療センター中央市民病院は利用した検査キットの差が影響した可能性が高いと発表している。初回はクラボウ社製キットで、2回目はアボット社製らしい。もちろん、この可能性も否定はできないが、アボット社製よりクラボウ社製のほうに擬陽性が多いというのは、確たるエビデンスのない話だ。
 また、6月18日に中国の重慶医科大学の研究者たちが『ネイチャー・メディスン』に発表した研究によると、無症状の感染者37人の抗体を調べたところ、その抗体価は症状がある感染者の約17%にすぎず、2カ月後には約4割で検出できなくなった。症状がある感染者で抗体が検出できなくなったのが、13%にすぎなかったのとは対照的だ。

日本国内で無症状感染者は過小評価されているはず
 神戸市立医療センター中央市民病院は外来患者を対象としており、多くは無症状者だ。抗体価の減衰などの影響も否定できない。最新の研究成果を踏まえ、見直す時期だろう。おそらく、日本国内で無症状の感染者は、過小評価されているはずだ。
 このことを支持する研究は、ほかからも報告されている。スウェーデンの研究者が8月14日に『セル』誌に発表したものだ。彼らはコロナ感染と診断された患者の家族28人を調べたところ、抗体反応は17人からしか検出されなかったが、26人(93%)からT細胞の反応を確認した。軽症感染と診断された31人では、30人(97%)でT細胞反応が確認され、抗体が検出された27人(87%)より多い。抗体陰性で、T細胞反応陽性の感染者が、コロナに対して免疫を有するかは今後の検証課題だ。
 では、彼らは周囲にどの程度うつすのだろうか。8月6日、『米国医師会誌(JAMA)内科版』に韓国のスンチョンヒャン(順天郷)大学の研究者たちが興味深い研究を発表した。彼らはコロナ感染が確認され、隔離された303人の患者の経過を調べた。
 このうち110人が隔離時に無症状で、そのうち21人がその後症状を呈した。89人は一貫して無症状で、これは全体の29%に相当した。意外だったのは、PCR検査で推定したウイルス量とPCR検査が陰性化するまでに要する時間が症状の有無に関わらず、変わらなかったことだ。この事実は、無症状感染者も周囲に感染させることを意味する。無症状の人にはPCR検査を実施しないという厚生労働省の方針は、医学的には不適切ということになる。

 韓国から、このような研究が出たのは、第1波の流行当初から徹底的にPCR検査を実施し、無症状感染者を正確に把握できていたからだ。かつてMERS(中東呼吸器症候群)の流行で苦戦した経験を生かしたことになる。実は、日本にもチャンスがあった。ダイヤモンド・プリンセス号の検疫の経験だ。多くの乗客が船内で感染し、その後の経過もわかっている。日本からも感染者の状態を記述した論文は報告されているが、PCRを徹底的に行い、無症状感染者の臨床像を明らかにしたものはない。日韓の差を分けたのは、PCRの体制整備である。
 コロナの研究の基盤はPCR検査だ。PCRをしないことには診断できないからだ。逆にPCR体制を充実すれば、さまざまな大学や医療機関が独自に臨床研究を進めることができる。
 例えば、8月19日にカリフォルニア大学サンディエゴ校の医師たちが『JAMA』に発表した研究だ。彼らは、コロナに感染した授乳中の母親18人から母乳を採取し、PCRを実施した。17人は陰性で、陽性だった1人も、ウイルスは複製せず、感染力は低いと判断した。
 彼らは授乳中の母親がコロナに感染しても、母乳を介した感染リスクは低いとの結論を出している。母親がコロナに感染しても、赤ちゃんとの接触を避け、搾乳などの形で母乳での育児を継続できることになる。母親にとって朗報だ。小さくてもいいので、患者や社会に役立つエビデンスを積み上げていくことが臨床研究だ。世界各国が力を注いでいる。

PCRが制限されている日本の問題
 なぜ、日本で臨床研究が進まないか。それは、PCRが制限されているからだ。マスコミは保健所や民間検査会社の検査提供能力をもっぱら議論しているが、問題はこれだけではない。日本は公費で検査を受ける対象が制限されているのだ。
 その典型例が無症状者だ。ところが、厚労省は「無症状者に検査は不要」という方針を貫いている。実は、この中に医師や看護師、介護士、さらに警察官や自衛隊員など社会的に不可欠な労働者である「エッセンシャルワーカー」や、ホームレスなどの社会的弱者が含まれる。
 医師や看護師に検査を実施することは、院内感染対策の基本だし、社会的弱者に検査の機会を提供するのは、彼らを介した感染拡大予防だけでなく、基本的な人権という意味でも重要だ。このような人々に検査を制限している先進国を私は知らない
 なぜ、彼らに公費が出ないのかと言えば、法的根拠がないからだ。コロナの検査の法的根拠は、感染症法だ。この法律で検査が認められているのは、感染者および疑い者と濃厚接触者だけだ。第1波で保健所が濃厚接触者への対応に忙殺される一方、発熱した一般市民には「37.5℃以上で4日間」という基準を作って検査を抑制したのは、感染症法に準拠して対応したからだ。
 これでは、感染しても大半が無症状で、彼らが周囲を感染させるコロナは抑えられない諸外国が無症状者に積極的にPCR検査を実施しているのは、このためだ。例えば、8月19日、英国政府は全人口を対象に定期的に検査を実施する方針を表明している。
 コロナが流行しても、医師や看護師、警察官などの一部の職種は働かざるをえない。コロナ感染は彼らの命に直結する。アメリカ・ニューヨーク州の公立学校教員13万3000人が加盟する「ニューヨーク市教員連盟」は、PCR検査などコロナ対策が整備されないままに、この9月に学校が再開されればストライキも辞さないという姿勢を表明している。
 エッセンシャルワーカーには検査を受ける権利があるはずだ。ところが、日本は逆だ。厚労省と専門家が率先して、検査を絞っている。7月16日、コロナ感染症対策分科会は「無症状の人を公費で検査しない」と取りまとめた

濃厚接触者の拡大解釈は厚労省に委ねられる
 厚労省は現行の感染症法の拡大解釈で乗り切ろうとしている。厚労省は、感染者が多発する地域やクラスターが発生した地域では、医療機関や高齢者施設の職員や入所者も公費で検査を受けられるという通知を出した。これは、このような地域で働く医師や看護師を「感染を疑う正当な理由がある」として、濃厚接触者の定義を拡大解釈するものだ。
 さらに8月21日には、接触確認アプリで通知があれば、全員が無料で検査を受けることができると発表した。これも濃厚接触者の拡大解釈だ。
 こんなことをしていたら、感染対策が後手に回る。院内感染が生じ、多くの高齢者が亡くなってしまう
 また、エッセンシャルワーカーの人権を何とも思っていないことになる。濃厚接触者の拡大解釈は厚労省に委ねられる。検査を受けることができるのは、「厚労省の恩寵的な措置」ということになる。これはわが国の公衆衛生が戦前、内務省の衛生警察業務だったことに由来するのだろう。国民の人権よりも国家の都合が優先されている

 エッセンシャルワーカーは検査を受ける権利がある。流行地域では、濃厚接触の有無とは無関係に検査を実施できるような体制を整えるのが急務だ。そのためには、まず臨時国会で感染症法を改定し、このことを明示することが求められる。国民目線で感染症対策を変える時期に来ている。