2020年8月6日木曜日

敵基地攻撃能力は憲法破壊の危険な暴走/真の抑止力にならない

 自民党は4日の政調審議会で党ミサイル防衛検討チームがまとめた敵基地攻撃能力の保有を含む抑止力向上を求める提言を了承し、安倍首相に提出しました。
 首相は提言を受けた後、麻生副総理、菅官房長官、茂木外相、河野防衛相と国家安全保障会議(NSC)関係閣僚会合を開催しました
 会合後、首相は記者団に「政府においても国家安全保障会議で徹底的に議論を行っている。今回の提言を受け止め、しっかりと方向性を打ち出し、速やかに実行していく考えだ」と述べました。政府は新たなミサイル防衛についての協議を本格化させ9月中に方向性を示す方針です

 自民党は第二次安倍政権の発足以降、二度にわたり敵基地攻撃能力の保有を政府に提言してきました。今回の提言ではあからさまな「敵基地攻撃能力」という表現避けていますが、それは党内外の批判をかわすためのごまかしです。

 しんぶん赤旗が「敵基地攻撃の提言 憲法破壊の危険な暴走やめよ」とする主張を掲げ、「専守防衛」からの重大な逸脱で、軍拡競争の悪循環を生むだけだと警告しました。
 東京新聞も「敵基地攻撃能力 真の抑止力にならない」とする社説を掲げ、抑止力と称しても必然的に周辺国の軍拡競争を促すので「安全保障のジレンマ」に陥ると批判しました。
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主張 敵基地攻撃の提言 憲法破壊の危険な暴走やめよ
しんぶん赤旗 2020年8月5日
 自民党が敵基地攻撃能力の保有について早急な検討と結論を求める提言をまとめ、安倍晋三首相に提出しました。「敵基地攻撃能力」という言葉は使わなかったものの、その保有を実質的に促し、憲法の平和原則を破壊する安倍政権の暴走をいっそう後押ししようとする極めて危険な動きです。

「専守防衛」から逸脱
 安倍政権は、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備断念を受け、9月にも新たな安全保障戦略の方向性を示そうとしています。提言はこれに合わせ、同党の「ミサイル防衛に関する検討チーム」(座長・小野寺五典元防衛相)を中心に議論されてきました。
「国民を守るための抑止力向上に関する提言」というのが、タイトルです。「イージス・アショア代替機能の確保」にとどまらず、「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力」=敵基地攻撃能力を保有する必要性を強調しているのが最大の特徴です。
「敵基地攻撃能力」という表現を避けたのは党内外の批判をかわすためのごまかしです。しかし、保有に積極的な議員からは、「相手領域内」という表現について「これまで(攻撃対象を)基地だけに限っていたが、基地外にも攻撃できるようになった。むしろ前進だ」(「朝日」1日付)という声も上がっているとされます。

 提言は、敵基地攻撃能力を保有する口実として「飛来するミサイルの迎撃だけを行っていては、防御しきれない恐れがある」としています。そのため、日米同盟の下での「日本は防御(盾)、米国は打撃(矛)」という基本的な役割分担は維持するとしつつ、「日米の対応オプション(選択肢)が重層的なものとなるよう、わが国がより主体的な取り組みを行う」とし、日本が「矛」の役割を一部担う考えを示しています。政府・自民党がこれまで曲がりなりにも堅持するとしてきた「専守防衛」からの重大な逸脱です。

 提言は、敵基地攻撃能力の保有のため、どのような兵器が必要かについては具体的に言及していません。しかし、安倍政権はすでに敵基地攻撃能力を構成する兵器の導入を進めています。巡航ミサイル(スタンド・オフ・ミサイル)や、F35B戦闘機の運用を可能にする「いずも」型護衛艦の空母化などです。「高速滑空弾」と呼ばれる超音速の新型ミサイルや、敵のレーダーを無力化する電子戦機の研究・開発も進めています。

 提言は、弾道ミサイルだけでなく、巡航ミサイルや無人機などによる攻撃に対処するため、米国の「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」との連携を主張するとともに、数百基もの監視衛星を打ち上げる「低軌道衛星コンステレーション」の検討も求めています。宇宙軍拡につながる大問題です。

際限のない軍拡の危険
 提言は、「抑止力の向上」を繰り返し強調しています。しかし、相手を抑え込む能力を高めれば、相手は抑え込まれないように自らの攻撃能力を強化します。能力を強めた敵をさらに抑え込もうとすれば、いっそうの攻撃能力が必要です。軍拡競争の悪循環を生み、東アジアの緊張をさらに激化させるのは明らかです。
 世論と運動を強め、自民党の暴走を阻止することが必要です。


社説 敵基地攻撃能力 真の抑止力にならない
東京新聞 2020年8月5日
「敵基地攻撃能力の保有」を事実上求める自民党の提言は、「専守防衛」の憲法九条を逸脱するのでは、との疑問が拭えない。地域の軍拡競争が加速すれば、真の抑止力にもならないのではないか。
 提言の発端は、安倍内閣が進めてきた地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」(地上イージス)の配備計画の撤回だ。それによって生じるミサイル防衛の「空白」をどう埋めるのか、自民党が検討してまとめた提言を、安倍晋三首相、菅義偉官房長官ら政府側にきのう申し入れた。
 提言は日本を標的とする弾道ミサイルについて「迎撃だけでは、防御しきれない恐れがある」と指摘した上で「相手領域内でも弾道ミサイルを阻止する能力の保有」が必要だとして、政府として早急に結論を出すよう求めている。
 提言には「敵基地攻撃能力の保有」という文言はないが、相手領域内での阻止能力には言及しており、敵基地攻撃能力の保有を事実上促したものといえる。

 歴代内閣は、ミサイル発射基地への攻撃は「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とは考えられない」と、憲法九条が認める自衛の範囲内としてきた。
 同時に政府見解は「平生から他国を攻撃する、攻撃的な脅威を与えるような兵器を持つことは憲法の趣旨ではない」ともしており、敵基地攻撃が可能な装備を持つことを認めてきたわけではない。
 それが一転、攻撃能力を保有することになれば、専守防衛を逸脱しかねない。抑止力向上のための取り組みが周辺国の軍拡競争を促し、逆に緊張を高める「安全保障のジレンマ」に陥る恐れもある。
 政府は国家安全保障会議で新しい安全保障戦略を検討、九月にも新しい方向性を示すというが、自民党提言をそのまま受け入れず、慎重に議論する必要がある。

 日本世論調査会の全国郵送世論調査では、自衛隊は「専守防衛を厳守するべきだ」と答えた人は76%に上る。国民多数の思いを、政府が踏みにじってはならない。
 安倍首相の政権復帰後、防衛費は増額が続き、過去最高を更新し続けている。新しい安保戦略に、防衛費を増額、維持する意図があるとしたら看過できない。
 首相は提言を受けて「国の使命は国民の命と平和な暮らしを守り抜くことだ」と述べた。ならば、最優先で取り組むべきは、コロナ禍に苦しむ国民の暮らしや仕事、学びを守ることであり、限られた予算を振り向けることである。