2020年8月5日水曜日

日本に核兵器禁止条約参加へ議論呼びかけ 中満泉・国連事務次長にインタビュー

 国連事務次長中満泉氏が東京新聞のインタビューを受けました。彼女は、広島と長崎の両市でそれぞれ開かれる平和式典に出席するために7月中旬に米国から入国後、2週間の自主隔離中に、ビデオ会議システム「Zoomズーム」でインタビューに応じました。

 中満氏は、学生のころから国際的な機関で仕事をしたいと思い国連を志望しまし
 核軍縮にかかわるようになったのは自分が手を挙げたからではなく、グテレス事務総長から泉、軍縮はどうだ聞かれ、経験かったものの「だからこそ良い。専門家である必要はない言われて引き受けたのでした。広島と長崎への訪問を決めた理由は「国連にとって、被爆75年は非常に大事な節目だからだ。個人的には、私が軍縮担当の間は毎年出席すると被爆者の方々と約束していたので、それを守りたかった」とインタビューの中で語っています
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日本に核兵器禁止条約参加へ議論呼びかけ 中満泉・国連事務次長 本紙インタビュー
東京新聞 2020年8月4日
オンライン取材で核軍縮について語る国連の中満泉事務次長
     中満泉

◆「ドアを完全に閉めないで」
 国連で軍縮を担当する中満泉事務次長は、本紙のインタビューで、新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない中で「世界はいかに脆弱ぜいじゃくかという教訓を得た。75年前の教訓とともに、世界を安全にするために核軍縮を進める必要がある」と訴えた。核兵器禁止条約に参加しない日本に対しては「ドアを完全に閉めないでほしい」と議論への参加を呼びかけた。(柚木まり)

 中満氏は、コロナについて「目に見えないウイルスによって、想像すらできなかった状況が瞬く間に広がった」として、「軍縮は国家間の不信感や緊張感をほぐし、安全保障にも役立つ。コロナでその役割を再確認し、機運と捉えて進める必要がある」と強調した。
 核禁条約は2017年に国連で採択され、核兵器の開発や保有、使用を全面禁止する内容。日本は反対の姿勢を取っている。中満氏は「核兵器をなくすという目的は日本も共有しているはずだ」と指摘。「日本だけでなく北大西洋条約機構(NATO)加盟国など反対意見が多いことも事実だが、ドアを完全に閉めずオープンマインドで条約を見守ってほしい」と要望した。

◆NPT再検討会議「核不使用の原則を再確認」
 コロナの影響で、来年に延期された核拡散防止条約(NPT)の再検討会議については「これほど安全保障環境が悪化する中で、核兵器が決して使用されてはいけないという原則を再確認する。誤算や誤解から核戦争が始まらないよう、危険回避のためのあらゆる合意が必要だ」と主張した。
 来年2月に期限切れとなる米ロの新戦略兵器削減条約(新START)を巡っては、米国が中国の参加を求め、延長交渉が難航しているが、中満氏は「延長してほしいと何度も言っている。その上で、どういう形で枠組みを広げるかを考えてほしい」と提案。失効回避を訴えた。
 相互の総領事館を閉鎖するなど対立が強まる米中関係に関しては「できれば対話の道に戻ってほしい。超大国が表立って対立関係にあることは、国連にとっては非常に難しい状況だ」と懸念を示した。
 中満氏は、広島と長崎の両市でそれぞれ開かれる平和式典に出席する。7月中旬に米国から入国後、2週間の自主隔離中に、ビデオ会議システム「Zoomズーム」でインタビューに応じた。


核軍縮の現状は 中満泉・国連事務次長に一問一答
東京新聞 2020年8月4日
 国連で軍縮を担当する中満泉事務次長がオンラインで本紙のインタビューに応じ、核軍縮の現状を語った。詳報は次の通り。(聞き手・柚木まり、関口克己)

◆コロナ禍「世界がいかに脆弱かという教訓」
 ―新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が止まらない中、原爆投下から75年の夏を迎えた。
 「核兵器によって世界が安全に保たれると言う人たちが多いが、目に見えないウイルスによって、想像すらできなかった状況が瞬く間に広がった。世界はいかに脆弱ぜいじゃくかという教訓だ。75年前の教訓とともにもう一度原点に返り、世界を安全にするために核軍縮を進めることが必要だ」

 ―軍縮において、コロナはどんな転機となるか。
 「軍縮は、国家間の不信感や緊張感を一つ一つほぐし、安全保障にも役立つ方策だ。コロナでその役割を再確認し、機運と捉えて進める必要がある。核の近代化は費用がかかるが、どの国もコロナ後の復興には多くの財源が必要だろう。対話と外交努力で世界を安全にしようという流れが、生まれるのではないか

◆核兵器禁止条約「発効を心待ちに」
 ―核兵器禁止条約が果たす役割とは。
 「批准が50カ国・地域に達して発効すれば、核兵器にまつわる秩序の中で1つの重要なツールとして仲間入りする。核兵器の使用・実験による被害者への援助など新しい側面を取り入れており、発効後に締約国自身が考えて発展させる条約だ。私たちも発効を心待ちにしている」

 ―日本は唯一の戦争被爆国でありながら、米国の「核の傘」に頼る。
 「日本への期待は大きい。米ロ、特にコロナの感染拡大後は米中の緊張関係が非常に高まっている中で、日本のように米国の同盟国であると同時に、核軍縮を進めたいという真ん中の立場から軍縮を支援する声が出れば非常にありがたい

 ―日本は条約に反対の立場だが。
 「国連からのメッセージとしては、ドアを完全にクローズしないでほしいということ。核兵器をなくす根っこの目的は共有しているはずだから、将来的なオプションになるかもしれないということも含めて、条約をフォローしてほしい」

◆米ロ中3か国「非難ではなく対話を」
 ―コロナの影響で核拡散防止条約(NPT)再検討会議が来年に延期された。
 「安全保障を取り巻く環境が悪化している今、核兵器は決して使用されてはならないという原則を再確認することが非常に重要だ。人工知能(AI)や宇宙など新たな科学技術がどう核とつながっているのか、NPTの範囲内で話し合うべきことがあるだろう」

 ―米ロの核軍縮を進める新戦略兵器削減条約(新START)も来年2月に期限を迎える。
 「延長を何度も求めている。国連が2国間条約に対して、これほど直接的にお願いすることはない。条約が失効すれば無制限に戦略核兵器を開発でき、非常に危険な状況になる。米国は中国も加えるよう求めるが、まずは5年延長をした上で、どのように枠組みを広げるか考えてほしい」

 ―新STARTに中国を加えることは現実的か。
 「米ロは世界の核弾頭の9割を保有し、核軍縮を進める上で特別な責任があることは明らかだ。私は中国に対し、将来的にこのような条約に参画して世界の戦略的安定に貢献することは、中国にとってもプラスになると話している。3カ国が非難し合うのではなく、対話と外交努力による安全保障の道に戻ってほしい」

◆核軍縮の停滞「国連として申し訳ない」
 ―コロナの感染拡大が懸念される中で、広島と長崎への訪問を決めた理由は。
 「国連にとって、被爆75年は非常に大事な節目だからだ。個人的には、私が軍縮担当の間は毎年出席すると被爆者の方々と約束していたので、それを守りたかった

 ―国連で核軍縮に取り組むことになった経緯は。
 「学生のころから国際的な機関で仕事をしたいと思い、国連を志望した。核軍縮にかかわるようになったのは、手を挙げたわけではない。グテレス事務総長から『泉、軍縮はどうだ』と聞かれた時、何の話か分からなかった。経験もなかったが『だからこそ良い。専門家である必要はない』と。軍縮は停滞していて、新しい視点を入れたかったのではないかと思う

 ―就任から3年以上になる。
 「米ロ、米中の関係が難しい状況の中で、なかなか軍縮は進まず、国連として残念で申し訳ないという気持ちもある。国連平和維持活動(PKO)など現場で仕事をしてきたので、社会的に最も弱い人や紛争の犠牲になった人、被爆者ら一人一人を念頭に置きながら軍縮を考えていきたい