田中 宇氏が、今度のコロナ禍を契機に米国は経済力を衰えさせ覇権体制を自滅させる一方で、内需主導(国内消費を拡大させることで経済を回す)に舵を切る中国に追い風が吹き、中国の内需が世界経済を牽引する役割を担い、世界の覇権は米国から中国に移るとする見方を示しました。
やがて中国はユーラシア大陸に一帯一路の回廊を確保し経済力を増していくので、日本も欧州も英国も豪州もインドも中国を敵視できなくなり、最後には米国も中国と和解すると見ています。
中国は無敵となり軍事力ではなく、経済力で覇権を握るということです。
時間軸の詳細は不明ですが、事態は一気に動くものでそう長い先ではないでしょう。
米国こそが後生大事の安倍氏には思いもかけない事態でしょうが、中国を仮想的敵国とする「敵基地攻撃能力の保有」の構想は、根底邸に覆ることになります。
いずれにしても、仮にも「地球を俯瞰」とかと口にする以上、そうして視点も身につけて欲しいものです。
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中国が内需型に転換し世界経済を主導する?
田中 宇 2020年8月6日
8月4日、中国の習近平が2035年までに経済を輸出主導型から内需主導型に転換していく「双循環」戦略を発表した。世界最多の14億人が住む中国は、人々の所得と消費が増えれば世界最大の市場になる。産業革命以来、世界中の企業家たちが、自社製品を中国に売ることを夢見てきた。中共自身、以前から内需拡大を目標の一つにしてきた。だが今回の戦略は、外国企業の製品を買わなくする方向への転換だ。これまで外国から製品や技術を輸入して作った商品を国内市場で売ってきたのをできるだけ減らし、中国の技術で中国で作ったものを中国市場で消費していく。外国ブランドが中国で売りにくくなり、世界の企業家を落胆させる内容だ。 ('Dual circulation' new choice for economy) (China’s Top Leaders Lay Out Economic Agenda as Focus Shifts From Pandemic Support)
中共が今回、この戦略を出した背景にあるのは「コロナ」と「トランプ」だ。新型コロナを理由(誇張した口実)に、世界中が都市閉鎖やそれに準じる政策をやっている。消費が急減した状態が何年も続く。製造業を中心とする、中国から世界への輸出も減ったままになる。加えて米国のトランプ政権が、貿易戦争など中国敵視策を強めている。世界最大の市場だった米国が、中国からの輸入を減らしていく。こうしたコロナとトランプの2要因から、中国はこれまでの輸出主導型の経済成長を続けられなくなった。 (Xi Calls for Pivot to Domestic Economy as Recovery Continues) (Xi’s Decision To Turn Inward Is Dangerous For Trade)
中国は新型コロナの発祥地で、今年2-4月には中国全土で都市閉鎖が行なわれて消費も急減したが、その後は感染の再拡大(の演技)があまりない。感染再拡大(の演技)と都市閉鎖をしつこく繰り返す米国などに比べ、中国は国内消費が回復している。それで中共は、経済の主導役を輸出から内需に転換することで事態を好転させようとしている。欧米や香港のマスコミの論調はそんな感じだ。この見方に立つと、中共は、コロナとトランプからマイナス要因を受けて追い詰められ、やむなく受動的に今回の戦略転換を打ち出したのであり、戦略転換には無理があり、うまくいかない可能性が高いことになる。 (China’s small factory activity strengthened in July to highest level since January 2011) (China's economy has rebounded after a steep slump - but challenges lie ahead)
中国は1950-60年代の冷戦時代にも、米欧から経済制裁されて輸出入に頼れなくなり、ソ連とも政治方針の違いから対立したため、独裁者だった毛沢東が大躍進など自力更生の戦略を展開し、国内で作った製品を国内で消費して経済を回そうとしたが技術力が全く足りず大失敗した。習近平は毛沢東を超える独裁政権を目指しているが、今回もまた自力更生的な内需型への転換は大失敗し、中国経済が不況に陥り、人々の怒りが高まって中国が政権転覆していきそうだ、という米日のマスコミと軽信者が好む予測になる。 (Dual circulation theory)
しかし全体的に見て、コロナもトランプも、米国の覇権体制を自滅させ、中国に追い風を吹かせる要因になっている。もし中共の今回の転換が成功したらどうなるか。米欧日の企業は、中国に輸出して儲けられなくなるだけでなく、世界向けの自社製品の中国での加工組立も従来のように安価で自由にやれなくなる。中国が米欧への輸出のドル建て代金で米国債を買ってくれることもなくなり、ドルや米国債の覇権の低下に拍車がかかる。 (中国は台頭するか潰れるか) (コロナ時代の中国の6つの国際戦略)
「中国は、米欧日や台湾のメーカーの下請け仕事なら得意だが、自分たちでゼロから設計製造販売まで全部やる技能などあるはずない」とか「中国人はスタバやアップルやビトンやトヨタなど米欧日のブランドが大好きで、中国の国内ブランドの製品など買いたくないはずだ」といった従来的な見方をすれば、中国が自国ブランド中心の内需主導型に経済を転換することなど無理だということになる。だがこうした見方は「前の時代」のもので、時代遅れだ。中国はトウ小平からの40年間に、外国企業が中国市場に参入する際、中国側との合弁形式の義務づけなど、外国企業(米英側)が持つ技術が中国に移転していく仕組みを作ってきた。米国は、近年まで中国人の留学生を太っ腹に受け入れ続け、中国が最先端の技能や理論を得ることに協力してきた。その結果、中国はすでにスマホから自動車、鉄道、建築、原発など多くの業種について米欧日と並ぶ技術を持っている。 (世界資本家とコラボする習近平の中国)
中国人の外国ブランド好きは、これまでの輸出主導型の経済政策の一環として中共が容認・扇動してきたものだ。中国は自由社会でなく、人民の思想や好き嫌いの公式論を共産党が統制できる。中共がこの四半世紀人民の外国ブランド好きを放置してきたのは意図的なものだ。中共は、米欧日の企業から先進的な技術をもらうため、中国人の外国ブランド好きの状況を維持し、米欧日の企業が中国に工場を作って中国市場に進出したくなる状況を作っていた。だが、中国が世界の先進技術を十分に得た今や、人民を外国ブランド好きの状態にしておく必要はなくなった。折よく、米中に習近平とトランプが出てきて、米国の中国敵視と、中国での愛国心扇動の強化が行われた結果、中国人が好むブランドは外国製から中国製に転換していく。 (世界経済を米中に2分し中国側を勝たせる)
内需主導型への転換には、中共が乗り越えるべき難題が、上記以外の点で存在する。それは従来、経済活動の儲けを中共自身がとりすぎており、一般の人々(老百姓=庶民)への配分が少ないことだ。中国の庶民は従来から旺盛に消費を増やしてきたが、今後もっと消費しないと経済が内需型に転換できない。それには、庶民の所得を全体的に増やす必要がある。中国の大都市以外の庶民はまだあまり豊かでない。庶民の所得を増やすには、経済活動の儲けに占める中共の取り分を減らすしかない。これまで、中央と地方の党幹部とその家族ら関係者は、中共の取り分の一部を私物化することでリッチな生活を楽しんできた。その結果、中国は世界で最も貧富格差の激しい国になっている。この格差を是正し、中共の取り分の一部を庶民に分配できれば、庶民の消費が増え、経済を内需型に転換できる。習近平はこれを成し遂げることで、庶民からの支持を増やし、ずっと政権を維持でき、毛沢東を越えられる。 (China’s economic future depends on closing its wealth gap otherwise new domestic strategy won’t work)
習近平が独裁制を敷くまで、中共中央はトウ小平が作った集団指導体制だった。この体制は合議制なので、それ以前の中共中央の常態だった権力闘争や群雄割拠を防ぐ利得があった。この体制下で権力闘争は下火になったが、党幹部が全員で中共の利権=カネの一部をピンはねして私腹を肥やす合議制的な腐敗が定着し、高度成長の中、党幹部と家族たちが金持ちになり、庶民はそれほど豊かにならない今の状況になっている。近年習近平が独裁を敷いたことで、今後、制度的なピンはねをやめさせ、党と庶民の取り分を改定できる可能性が強まっている。党幹部たちの不満が強いだろうが、それは独裁で抑えられる。独裁はポピュリズムでもあり、党幹部が得ていたカネをうまく庶民に分配できれば独裁を維持できる。 (The Great Paradox of Donald Trump’s Plan to Combat China)
全体的にみて、今回の転換は成功する確率が高いと私は考えている。中国はトウ小平の改革開放以来の40年間、米欧日の製造業の下請けとして輸出主導型の経済戦略をとってきた。今回の転換はそれを終わらせ、中国中心の経済システム(一帯一路など)に転換していくためのものだ。中国を下請けとして使ってきた米国ではトランプが、これまで下請けと親分の関係で一体だった米中の経済システムを分離・デカップリングする動きを全力で進めている。トランプは中国を突き放し、習近平は対米自立の内需主導型への転換を開始する。トランプと習近平はどうみてもグルで、米覇権体制を崩し、中国をアジアの覇権国として台頭させる策を2人で進めている。 (米国の多極側に引っ張り上げられた中共の70年)
習近平が内需主導型への転換をめざす「双循環」の新戦略を打ち出したのは、8月4日の中共中央常務委員会での演説だった。この演説では中国のアジア覇権戦略である「一帯一路」のキーワードが一度も出てこなかった。それを聞いて香港などのマスコミは「習近平は米国から非難されるのがいやで、一帯一路をやめて、代わりに内需主導型への転換をやることにしたにに違いない」と解説されている。だが、この手の指摘は的外れだ。中国は引き続き全速力で一帯一路を進めている。それは中国が最近、イランと国家間の25年間の長期契約を結び、中国がイランの石油ガス開発を進めて利権を獲得するとともに、イランのインフラ整備など経済建設も中国が手がけるという、一帯一路を絵に描いたような協定をまとめていることからわかる。イランは米国の仇敵だ。習近平が米国からの非難を避けたいなら、イランと協定しない。 (Why The Iran-China Oil Alliance Is So Important) (More Fallout from Iran/China Deal: India Loses Farzad-B)
現実は正反対で、米国がイランと中国を敵視するほど、中国とイランは反米非米で結束していく。イランは従来、中国とインドの両方と仲良くしようとしており、インドはイランのチャバハル港を建設し、そこから中央アジアに向かう鉄道建設を手がけていた。イランは、中国と長期の戦略協定を結ぶにあたり、インドとの関係を疎遠にすることを決め、インドと結んでいたチャバハル港と鉄道建設の契約を破棄する見通しだ。インドはイランのガス田開発からも外された。中国は最近、ヒマラヤ山脈の国境地帯でインドと兵隊どうしの派手な殴り合いの喧嘩を展開したが、これはイランやスリランカ、ネパールなど、これまで中国とインドの両方と仲良くしてきた国々に「今後は中国かインドかどちらかを選べ。経済成長の凄さから言って当然、インドじゃなくて中国だよな」と圧力をかける意味があったようだ。 (Why is India out of the Chabahar rail project?) (Confusion over India’s role in Iran’s Chabahar – Zahedan line)
中国は、イランと戦略関係を結んだことで、イランの影響圏であるイラク、シリア、レバノンに対しても影響力を増すことになった。これらの中東諸国ではロシアの影響力も増しているが、ロシアと中国は引き続き仲が良く、ロシアが軍事安保面、中国が経済面で地域覇権を行使する協力関係になっている。トランプはアフガニスタンからの撤兵を急いでいるが、これも中国がパキスタン、アフガニスタン、イランと続く一帯一路の回廊を確保することに貢献している。米軍撤退後のアフガニスタンも、中露イランの覇権下に入る。半面、インドはアフガンからも追い出されていく。ただし今後インドが中国に譲歩して和解する気になれば別だ。 (America Has Created a “China-Iran Collaboration” Monster) (中露イランと対決させられるイスラエル)
アジア中東から米国が出て行くと、インドは安保と経済の両面で、中国と和解せざるを得ない。中国はインドが歩み寄ってきたら「まずパキスタンと和解してくれ」と言うだろう。インドとパキスタンの対立は、パキスタンの方が弱いので和解交渉が進まなかった。インドは、中国との対立を解消するために、パキスタンとの対立も解消していく。中国は、英国支配の最後っ屁的な置き土産だった印パの対立を仲裁・解決し、南アジアで利権を拡大する。中国は引き続き隆々と一帯一路の覇権拡大を続けていく。中共は一帯一路で大儲けできるのだから、その意味でも国内の庶民の所得を増やしてあげられる。 (中国が好む多極・多重型覇権) (トランプと露中がこっそり連携して印パの和解を仲裁)
習近平が今回の演説で一帯一路に言及しなかったのは、一帯一路をやめるからでなく、逆に、もうユーラシアやアフリカなどの諸国に一帯一路が十分に浸透し、これ以上宣伝する必要がなくなったからだ。覇権は隠然と行使するのが良い。すでに覇権が確立しつつあるので、覇権的な印象を持たれる一帯一路という言葉を中国自身が使わない方が得策だ。中国は今後「あれはもうやめました」と言わんばかりに一帯一路というキーワードを使わなくなるかもしれない。今後、中国が自国ブランドでの内需主導型の経済成長にうまく移行すると、それらの中国ブランドの商品群は、そのまま一帯一路の中国覇権地域でのブランドになっていく。中国は、一党独裁で経済成長する自国の手法を、中東アフリカ中南米など非米諸国に輸出していく。 (Potential China-Iran pact has major implications for Pakistan) (Modi’s ‘New’ India: Notch Or Knot On China’s Belt (And Road Initiative))
米国の差し金で、米欧日は今後もずっとコロナ対策として無意味な都市閉鎖・経済停止をやらされ続ける。米欧日は世界経済を牽引できない。中国がうまいこと内需主導に転換できると、中国の内需が世界経済を牽引する役割になる。これまで米国が覇権国だった一つの理由は、世界最大の消費市場だったからだ。この機能は今後たぶん米国から中国に移っていく。中国は経済面で覇権国になる。中国市場はこれから中国企業が中心になるが、中共としては、他の国々の企業を参入させてやっても良い。その国が中国を敵視せず尊重するなら、という条件つきだ。日本も欧州も英国も豪州もインドも、中国を敵視できなくなる。最後には米国も中国と和解する。うまく内需型に転換できると中国は無敵になる。軍事力でなく、経済が覇権を決める。 (Mike Pompeo Challenges China’s Governing Regime) (South Korea Is Charting an Independent Course on China)
中国が自国ブランドでの内需主導型の経済発展に転換していくことは、日本や韓国にとっても厄介な問題になる。日本も韓国も、自国ブランドの商品の売れ行きが中国で伸びなくなる。最悪、売れなくなる。中国市場は日韓企業にとって儲け頭だった。中国市場で商品を売ろうと思ったら、中国に楯突けなくなる。米国の退潮後、韓国だけでなく日本も中国の影響圏に入っていく。属国になる。ほとんど不可避だ。安価な中国ブランドの商品が今よりもっと日韓に入ってくる。安倍晋三は、何年も前から中国の傀儡だ。安倍の政権の長期化を決めているのは日本国民でなく習近平だ。 (米国の中国敵視に追随せず対中和解した安倍の日本)
米国はこれからどんどん凹んでいく。すでにドル崩壊が進んでいる。米国が復活するのは孤立主義(=覇権放棄)が進み、中国が台頭し、世界が多極化した後だ。米国は覇権を喪失し、軍産諜報界の隠然支配から解放された後、自滅しかもたらさない左翼リベラルの化けの皮もはがれ、共和党の草の根的な独創性を取り戻す。その後、南北米州の地域覇権国として再拡大する。そうなる前にインチキなコロナ危機も終わる。世界はリセット・再起動していく。
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