東京新聞が、緊急検証として「一強の果てに 安倍政権の7年8カ月」の連載を始めました。
安倍政治は、世論の過半が反対している法案や政策を、過半数の議席を持っていることを頼んで強行採決を繰り返しました。
一方で、安倍首相の方針を強く支持するいわゆる「安倍応援団」が形成され、彼らは安倍首相の立法や政策に反対する勢力を強く批判しました。その結果、安倍政権下で国民の分断が進みました。
1回目は「世論を顧みず、敵と味方に分断 『安倍カラー』政策を押し通す」です。
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<安倍政権 緊急検証連載>
<一強の果てに 安倍政権の7年8カ月(1)>
世論を顧みず、敵と味方に分断 「安倍カラー」政策を押し通す
東京新聞 2020年8月30日
◆デモ参加に批判の書き込みが…
「何かに反対したいだけの『そういう人』と、色眼鏡で見られ、一部の同級生から避けられてしまった」
大学院生の是恒(これつね)香琳さん(29)は、2015年に安全保障関連法が成立した際の体験を振り返る。集団的自衛権行使を可能とする同法に疑問を持ち、大学生のグループ「SEALDsシールズ」の一員として、国会前デモに毎週のように参加していた。
「おかしい」と思ったことに声を上げただけ。それなのに、是恒さんの行動にはネット上で批判や脅迫めいた書き込みもあった。
安倍政権の7年8カ月では、安倍晋三首相がこだわる政策を推進すると、それに反対する市民が街頭で抗議する構図が根付いた。
◆首相「こんな人たちに負けるわけにはいかない」
象徴的なのは17年7月の東京都議選。秋葉原駅前での街頭演説で、首相は政権批判の声を上げる聴衆を指さし「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と声を荒らげた。この対応を批判されると、同年10月の衆院選からは遊説日程を公表しない「ステルス作戦」。政治家にとって重要な国民に直接語りかけ、民意を肌で感じる機会を避けた。
「分断」は、市民同士の間にも拡大。首相の街頭演説会場で、聴衆から「辞めろ」「安倍総理がんばれ」と真逆のやじが飛び交い、異様な空気に包まれることも珍しくなくなった。
◆分断の背景に安保法、秘密保護法
こうした分断の背景には、首相が世論を顧みず、国論を二分する法律の成立を強行したことがある。
国民の知る権利を侵害する恐れが強い特定秘密保護法。自衛隊の海外での活動を広げ、多くの憲法学者が違憲と指摘した安保法―。国会前には、是恒さんのように抗議する市民が連日のように駆けつけた。
時間をかけて審議し、大多数の国民の理解を得た上で成立させれば、これだけの分断を招かなかった可能性がある。
政権基盤である保守層をまず固め、それを支持の核として政権運営を安定させる首相の政治手法。時間をかけて議論するよりも、考えが異なる「こんな人たち」は遠ざける方が早かった。退陣を表明した28日の記者会見では「政治で最も重要なことは結果を出すことだ」と振り返った。
◆願うは「排除しない政治」
是恒さんはシールズ解散後、性暴力をなくす運動に取り組んできたが、そこでも、民族差別など世の中を「敵」と「味方」に分ける風潮の高まりを感じる。
次の首相には、異なる意見に耳を傾け、説明を尽くしてほしいと願う。「社会は多様な人たちでつくっているのだから、『こんな人たち』と排除しない政治を取り戻してほしい」(木谷孝洋)
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「安倍1強」と称された長期政権を築いた安倍首相の突然の辞任表明。7年8カ月の政権運営は私たちの社会をどう変えたのか。政権の功罪を緊急連載する。